発売中の「アエラ」最新号に、NHKの新経営委員に関する記事が掲載されました。
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新経営委員の人選で注目集まる公共放送
アベノNHK右旋回へ
アベノNHK右旋回へ
NHKの経営委員会や会長に「安倍政権寄り」の人物が就くことで起こり得るのは、微妙でわかりにくい変化だ。
「テレビニュースでは、取り上げる順番、時間、論調に、伝える側の意図を反映できる。政権が世間の注目を望まない事柄については、『重要ではない』との印象を与える放送になるかもしれません」(碓井広義・上智大学教授)
例えば、夜7時のニュースで、3分半かけて伝えられた小泉純一郎元首相の「原発即ゼロ」の主張が、2分とか1分で報じられる、ということが起きるかもしれない。
「原発や安全保障、特定秘密保護法案など、安倍政権が推進する政策に批判的な内容はなるべく避ける。そうした、政権にとって都合のいい放送に、視聴者が知らない間になる可能性があります」(砂川浩慶・立教大学准教授)
すでに、経営委員には安倍政権の意をくむとされる人物が参入している。「優れた歴史観と国家観、政治的な手腕と能力は自民党随一」(WiLL12月号)と安倍晋三首相を絶賛する作家・百田尚樹氏。それに、安倍氏の家庭教師だったJT顧問の本田勝彦氏だ(ともに11月11日付で任命)。
会長の現場への影響力
さらに、安倍氏の首相再登板を求めた「民間人有志の会」の代表幹事だった哲学者・長谷川三千子氏ら、安倍政権が指名し、自民党などの賛成で国会が同意した5人のうちの残り3人も、12月11日に任命される予定だ。
経営委員が番組の編集に対して口を出すことは、放送法で禁じられている。だが、経営委員会ができることの一つに、会長の選出がある。委員12人中、9人以上の賛成で任命する決まりだ。このことは、時の政権と親和性の高い委員が少なくとも4人いれば、同政権が嫌う人物はまず会長に選ばれない――裏返せば、政権にとって好ましい人物が選ばれやすい――ことを意味する。
会長が番組制作などの現場に細かく指示を出すことは、ほとんどないとされる。しかし、会長は職員の人事権をもつ。その考えは、職員間の上意下達で現場に影響すると、放送ジャーナリストの小田桐誠氏は話す。
「ある年の放送記念日の特別番組で、制作サイドは司会にタレントAを起用しようとした。しかし、当時の会長が『Aか・・・・』とつぶやいたら、すぐ変更されたと言われています」
不満募る原発推進政権
現在の松本正之会長は、来年1月24日で3年の任期が切れる。原発や安全保障をめぐる昨今のNHKの報道姿勢に、安倍政権は不満を募らせているとされる。続投は困難との見方が有力で、財界やNHK内部の後任候補者名が、一部で報じられている。
不偏不党、公平公正を掲げるNHKだが、旗印に反し、政治の圧力に右往左往してきた。政治記者出身で会長もつとめた島桂次(故人)の著書『シマゲジ風雲録』によると、田中角栄は首相だった1973年、会長内定者を自宅に呼び、役員を指名した。81年には、会長が「政府与党の脅し」に屈し、ロッキード事件5周年の特集番組が中止になったという。政治介入を許す理由として同書は、経営委員を政府与党が選ぶ制度や、NHKの予算を国会が承認する仕組みを挙げる。それらは、いまも変わっていない。
「政権の顔色をうかがう放送になることで、『まあ政府の言う通りでいいか』という雰囲気が社会に広がりかねないことが心配です」(砂川氏)
放送内容が政権の意向に左右される可能性について、NHK広報局は「影響されることはありません」と説明。過去の放送についても「ありません」としている。
編集部・田村栄治
(アエラ 2013.12.02号)