碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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Eテレ「美輪明宏 愛のモヤモヤ相談室」時代を超越した”菩薩”である

2022年06月02日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

Eテレ「美輪明宏 愛のモヤモヤ相談室」

時代を超越した”菩薩”である 

 

美輪明宏は現在87歳。この年齢で、Eテレ「美輪明宏 愛のモヤモヤ相談室」という“冠番組”を持っていること自体がすごい。以前は単発だったが、この4月から月1回のレギュラーとなった。

中身はいたってシンプルだ。スタジオには美輪と高瀬耕造アナウンサー。そこに仮面で目元を隠した相談者がやってくる。

1人目は、唯一の肉親である母親との間に金銭トラブルを抱える30代男性。美輪は「心の縁は切れていますよ」と冷静に言い、「情念ではなく理性で」距離を置くようにとアドバイスする。

次はメイドカフェを休職中の20代女性だ。小・中学校でイジメに遭っており、職場復帰に不安を持っている。美輪は「過去の記憶なんか、蹴飛ばしなさい!」と一喝。何より、自分を否定しないようにと諭していく。

見ていて気づくのは、相談相手の話を聞くことに多くの時間を費やす会話術だ。

しかも時々鋭い質問をすることで、彼ら自身に考えさせるのだ。美輪からの一方的なご託宣ではなく、一緒に見つけた「これからの道」だからこそ納得感がある。

鮮やかな黄色の髪に、淡いピンクの衣装の美輪。厳しい言葉も柔らかな笑みを浮かべて語る姿は、やはり尋常の人ではない。

かつて評論家の平岡正明は「山口百恵は菩薩である」と喝破した。山口百恵が“昭和の菩薩”なら、美輪明宏こそ“時代を超えた菩薩“である。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは‼」2022.06.01)