【旧書回想】
週刊新潮に寄稿した、
2020年2月後期の書評から
三浦雅士『石坂洋次郎の逆襲』
講談社 2970円
『青い山脈』『陽のあたる坂道』などで知られる作家、石坂洋次郎。かつてのベストセラーや大ヒット映画に比して、現在その名を見聞きすることは稀だ。しかし「主体的な女性を追究した」作品群が現代につながると著者は言う。新たな視点による石坂文学再評価だ。(2020.01.28発行)
三島由紀夫『春告げ鳥―初期作品集』
平凡社 2200円
なんと三島由紀夫の〝新刊〟が現れた。本書を企画したのは23歳の三島自身だが、版元の倒産で日の目を見なかった。いわば幻の自選集である。評論、詩、短編小説などの初期作品が、本人の目次案に沿って並んでいる。没後50年の節目に届いた、三島からの贈り物だ。(2020.01.30発行)
橋本健二『<格差>と<階級>の戦後史』
河出新書 1210円
現代社会を語る際、必須の概念となっている「格差」。本書は、経済史や世相史、さらに文化史なども踏まえ、格差の問題を「戦後日本の歴史的な文脈に位置づけ、評価し直す」試みである。格差の背後に「階級構造」があるという指摘が、戦後史の見方を変えていく。(2020.01.30発行)
とに~(アートテラー)、青山裕企『東京のレトロ美術館』
エクスナレッジ 1760円
歴史のある美術館ではなく、レトロな趣が漂う34の美術館が並ぶ。いずれも美術作品は白い壁で囲まれた展示室ではなく、個性に満ちた空間に置かれている。著者はアートを愛する、お笑い芸人。朝倉彫塑館、原美術館、五島美術館など建物も含めて丸ごと鑑賞したい。(2020.01.31発行)
籠池泰典、赤澤竜也『国策不捜査~「森友事件」の全貌』
文藝春秋 1870円
「森友学園」前理事長は、詐欺などに問われた裁判で有罪判決を受けた。一方、国有地を不当な安値で売却した背任や、行政文書の改ざんなどを行った側は刑事責任を問われていない。公権力は何をして、何をしなかったのか。本書は事件の核心部分を暴く重要証言だ。(2020.02.15発行)
石川文洋『ベトナム戦争と私~カメラマンの記録した戦場』
朝日新聞出版 2200円
ベトナム戦争終結から45年が過ぎた。著者は戦時中、約4年にわたってサイゴンに住み、南ベトナム政府軍や米軍に同行撮影した。さらに北ベトナムにも入り、戦場のリアルと民間人の日常を目にする。「これが戦争なのだ」という実感が伝わる、貴重な回想記だ。(2020.02.25発行)