碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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週刊ポストで、「BPO」について解説したこと

2022年06月03日 | メディアでのコメント・論評

 

 

“BPOのせいで面白い番組が作れない”は

テレビ局の言い訳か、

求められる姿勢とは

 

視聴者を楽しませるための“攻めた演出”とコンプライアンスの狭間で、テレビ界が揺れている。そんな過渡期に存在感を増しているのが“放送倫理の番人”BPO(放送倫理・番組向上機構)だ。

BPOの存在は、時に「テレビをつまらなくしている」とも指摘されることがあるが、実際はどうなのか。

BPOが今年4月15日、〈「痛みを伴うことを笑いの対象とするバラエティー」に関する見解〉を公表し、テレビ業界には大きな衝撃が走った。

「見解」では、〈テレビで演出される「他人に心身の痛みを与える行為」を、青少年が模倣して、いじめに発展する危険性も考えられる。

また、スタジオでゲストが笑いながら視聴する様子が、いじめ場面の傍観を許容するモデルになることも懸念される〉と指摘。バラエティーの“罰ゲーム”の演出ができにくくなっているという。

BPOは任意団体で法的権限があるわけではないが、テレビ局への影響力は非常に強い。番組の内容をBPOが「放送倫理に反する」と判断すれば、テレビ局は黙って従うしかないのが現実だ。

そこまで番組内容に力を持つBPOの存在に政治家が目をつけないはずがない。

今年3月、自民党情報通信戦略調査会はNHKや民放連から各局の番組審議会についてヒアリングした後、調査会長の佐藤勉・元総務相は「BPO委員の人選に国会が関われないか提起したい」と発言した。政治家がBPOを通じて番組をチェックしようという狙いだ。

だが、そもそもBPOが設立されたのは放送業界が自主的に番組を検証する第三者機関を持つことで、放送への政治介入を防ぐという目的もある。

元上智大学教授でメディア文化評論家の碓井広義氏が語る。

「放送分野は常に権力側から介入される危険がある。だから放送の自由を守るためにBPOが必要な組織なのは間違いない。とはいえ、BPOがやらせ演出や間違った報道に是正を求めるのは当然にしても、バラエティー番組の表現内容まで評価するとなると難しい面があるのは事実です。現在の青少年委員会には、たとえば番組制作者や映画監督など作り手側の実情も考慮したうえで意見が言える委員がいません。やや視聴者の声に偏っているように思えます」

そのうえで、「痛みを伴う笑い」については、こう続ける。

「見解をよく読むと、BPOがとくに問題視しているのは、芸人が痛がる姿を周囲が嘲笑する演出がなされていることです。いじめを止めるのではなく、遠巻きに眺めて嘲笑するような演出は、子供の中に芽生えた共感性の発達を阻害するという指摘を制作サイドは受け止める必要がある。『BPOがうるさいから面白い番組が作れない』というのは言い訳であり、怠慢でしかないと思います。笑いの過渡期であるからこそ、テレビもこれまで通用してきたお笑いに、新たな何かを加えていかなければと考えないといけない」

BPOの放送倫理検証委員会委員を務めたジャーナリストの斎藤貴男氏にも意見を聞いた。斎藤氏は「青少年委員会の出身者ではないため、あくまで個人的な見解」として、こう語った。

「今や世の中全体のコンプライアンス意識がものすごく高くなった。最近の恋愛ドラマは必ずLGBTを入れないといけないとか、“奥さんが料理を作って旦那さんが新聞読んでいる”なんて演出がダメだということは、BPOが言っているのではなく、テレビ局が世の中の空気を敏感に察知し、意識し過ぎている。確かにBPOは具体的な意見書や見解を出している。青少年委員会の見解には私も大枠では同意する。けれども、スタッフや芸能人はプロなのだから、子供たちに悪影響を与えないような配慮をするとか、不快感を与えないようにしながら、“あんなことを言っているけれど俺たちはやるんだ”という覚悟を示せばいい」

テレビ番組が面白くなくなっている原因についてはこう見ている。

「BPOはあくまでも表現の自由を守るためにあるわけで、奉行所の“お白州”ではない。たとえ番組が放送倫理に違反しているという意見書を出しても絶対ではなく、よりよい番組作りに役立ててくれればいいわけです。その原点が薄まってテレビ局や制作サイドに恐れられる存在になっていることが問題です。単に、テレビ局が不甲斐ないのをBPOのせいにしているだけのような気がします」(同前)

テレビの面白さを奪った“真犯人”はBPOの規制か、それとも思考停止したテレビ自身か。

(週刊ポスト 2022年6月10・17日号)


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