【旧書回想】
週刊新潮に寄稿した
2020年4月後期の書評から
立川談四楼
『しゃべるばかりが能じゃない~落語立川流伝え方の極意』
毎日新聞出版 1650円
他者に何かを伝えようとする時、その人の個性が出る。書けば文体、しゃべれば口調。立川談志の口調は「断定型」だが、真似ても劣化コピーにしかならないそうだ。かつての弟子として、落語家として、さらに師匠としての体験を交えて語る「伝わる」の極意だ。(2020.03.30発行)
三島邦弘
『パルプ・ノンフィクション~出版社つぶれるかもしれない日記』
河出書房新社 1980円
2006年、著者は単身でミシマ社という出版社を興した。動機はシンプル。自分が思う「おもしろい本」を出したかったのだ。本書は過去5年分の回想記であり、「本」をめぐる思考の記録でもある。この小さな版元は、なぜ今もリングに立ち続けていられるのか?(2020.03.30発行)
石原慎太郎『老いてこそ生き甲斐』
幻冬舎 2298円
87歳の著者は紛れもない現役作家だ。「老いること」の先達として仕事や人生を率直に語っている。その根底にあるのは「何事も老いてもあきらめてはならぬ」の精神だ。同時に「死」を見つめる冷静な視線が光る。弟の裕次郎について「死に様は無残なものでした」と告白。また三島由紀夫や江藤淳の死に触れた文章も、「男はやはり死に際」を持論とする、著者ならではの洞察と哀悼に満ちている。(2020.03.25発行)
柚月裕子『暴虎の牙』
角川書店 1799円
衝撃の警察小説『孤狼の血』から5年。一昨年の『凶犬の眼』に続く本書で、ついにシリーズが完結する。変らないのは登場する男たちが魅力的であることだ。破戒僧の如き圧倒的な存在感を放つ刑事、大上。その愛弟子である日岡。そして「わしらにあるんは、力だけじゃ」と突き進む、独立愚連隊の沖。命懸けで筋を通そうとする男たちの挽歌であり、ジャパン・ノアールの到達点を示す一冊だ。(2020.03.27発行)
梅山いつき
『佐藤信と「運動」の演劇~黒テントとともに歩んだ50年』
作品社 3080円
紅テントの唐十郎と黒テントの佐藤信。60年代後半から70年代にかけて、演劇の世界を大きく揺さぶったのがこの2人だ。著者は佐藤の愛弟子にして研究者でもある。本書は現在まで続く佐藤の活動、いや運動の本質に迫ろうとする試みだ。10代で出会った「演劇的なもの」に始まり、自由劇場、演劇センター68/71など、アングラ演劇の軌跡が明かされていく。巻末の年譜もそのまま現代演劇史だ。(2020.03.31発行)