【旧書回想】
週刊新潮に寄稿した、
2020年2月前期の書評から
宇野千代『青山二郎の話・小林秀雄の話』
中公文庫 990円
この文庫オリジナル、表題はともかく主軸は青山二郎である。日本の美術や文化の天才的目利きだった青山。その傑物と色恋抜きで向き合ってきた千代。器物を前に「お前が見ろ、お前が感じろ」と言われたと思ったと書くが、青山についてもその教えを守っている。(2019.12.25発行)
吉野次郎
『サイバーアンダーグラウンド~ネットの闇に巣喰う人々』
日経BP 1760円
アマゾンの「やらせレビュー」を蔓延させる黒幕。アダルト映像の「ライブ配信」を200億円産業にした男。北朝鮮で「サイバー兵士」を養成した大学教授。ネットに生息する魑魅魍魎の姿を垣間見せてくれる。そこにあるのは個人から国家レベルまでの危機だ。(2020.01.21発行)
内田樹、えらいてんちょう(矢内東紀)『しょぼい生活革命』
晶文社 1650円
両親は東大全共闘の生き残りだという30歳の異色起業家と、「生きているうちに伝えておきたいこと」があるという70歳の対談集だ。共同体、貧困、資本主義、国家、家族、教育、福祉など話題は多岐に及ぶ。「分断と自閉の時代」を生きるヒントとして秀逸な一冊。(2020.01.25発行)
塩澤幸登『昭和芸能界史 [昭和二十年夏~昭和三十一年]篇』
河出書房新社 2970円
戦後の芸能界を多角的に描いた労作。映画、音楽、放送はもちろん、出版にも目配りした点がユニークだ。当時、雑誌の連載小説を映画化し、読者を観客として動員する流れが王道だった。時代を作ったスターやアイドルの原風景がここにある。(2020.01.25発行)
渡辺晋輔、陳岡めぐみ『国立西洋美術館 名画の見かた』
集英社 2310円
開館から60年が過ぎた上野の国立西洋美術館。2人の著者はその現役学芸員であり、イタリアとフランスの美術史専門家だ。静物画や風景画など、ジャンル分けした収蔵品を解説しながら西洋美術史をたどっていく。また美術館と作品をめぐるコラムもトリビア満載だ。(2020.01.29発行)
NHKスペシャル取材班
『憲法と日本人
~1949-64年 改憲をめぐる「15年」の攻防』
朝日新聞出版 1650円
日本国憲法が70年以上も改正されなかったのはなぜか。かつて展開された白熱の改憲論議を検証し、憲法の現在とこれからを探る試みだ。改憲論の原点とは? アメリカや経済界からの改憲圧力の内幕。改憲と護憲の攻防戦。果たしてそれは「押しつけ憲法」だったのか。(2020.01.30発行)