碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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向井理主演『パリピ孔明』 異色の「音楽ドラマ」への挑戦

2023年10月20日 | 「しんぶん赤旗」連載中のテレビ評

 

 

三国志と音楽ドラマ

 

今期ドラマ随一の「奇作」かもしれない。向井理主演「パリピ孔明」(フジテレビ系)である。

何しろ、「三国志」で知られる天才軍師・諸葛孔明(向井)が現代の渋谷に転生し、駆け出しのシンガーソングライター・英子(上白石萌歌)の夢を叶えようと奮闘する物語なのだ。

この設定だけで「もう無理」と思う人も少なくないだろう。しかし見ないで終わるには惜しい。奇作ではあるが際物ではないからだ。

このドラマの第一の見所は、向井が演じる孔明のキャラクターだ。三国時代の「漢服」と「羽毛扇」をそのままに、自身の知力や経験を生かして、英子の歌手としての才能を開花させるべく様々な策略を繰り出していく。

たとえば、英子が歌う会場に来た客を逃がさないために、大量のスモークを焚いて不明瞭感を演出。客の動線で照明を明滅させ、判断力を鈍らせた。さらにステージの配置を工夫したことで客は出口にたどり着けず、フロアに留まって映子の歌を聴くことになる。

これは一度足を踏み入れたら元の場所に戻れない幻惑の陣、「石兵八陣(せきへいはちじん)」の応用だった。三国志ファンならずとも拍手だ。

また孔明がハロウィンやクラブなど、三国時代とは異質の文化に接したた時のリアクションが笑いを誘う。同時にその柔軟な発想や適応力に驚かされる。

自分が転生したことを隠さず、周囲の人からは「諸葛孔明になりきった変人」と思われていることで、逆に彼の個性やカリスマ性が際立つのだ。向井はこの役柄を悠々と演じている。

もう一つの見所は、英子という女性の成長物語だ。彼女は孔明から刺激を受け、カバー曲だけでなくオリジナル曲にも挑戦しようとする。ここは英子ではなく、「歌手・上白石萌歌」の力量が問われる難しい部分だが、ぜひ頑張ってもらいたい。

加えて、孔明との間に生まれ始めた信頼や友情の行方も大いに気になる。

三国志とポピュラー音楽という全く異なるジャンルを融合させた、斬新な設定やストーリー。三国志の歴史や人物に詳しい人も、そうでない人も楽しめるような演出。そして向井や上白石による緩急自在の演技。異色の「音楽ドラマ」への挑戦ともいえる1本だ。

(しんぶん赤旗「波動」2023.10.19)