<論の芽>
俳優の不祥事=お蔵入り
作品に罪はある?
メディア文化評論家・碓井広義さんに聞く
不祥事をおこした俳優らが出演していた映画やテレビドラマは、とりあえずお蔵入りにするか、出演部分をカットする――。こんな対応が目立つように感じます。作品に罪はあるのでしょうか。メディア文化評論家の碓井広義さん(68)に聞きました。
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テレビの現場で約20年働いてきましたが、1990年代までは、こんなことはなかったと思います。
コンプライアンスということが盛んに言われるようになったのは、輸入牛肉を国産牛肉と偽る牛肉偽装事件などが起きた2000年代からでしょう。
放送界や映画界も、コンプライアンス重視になりました。違法行為やモラルを逸脱した行為が批判されるのは当然です。
しかし、その俳優らの出演作品までもが連帯責任であるかのように葬られることには違和感を覚えます。とにかくリスクがあることは避ける、という思考停止に陥っているように見えます。
まず考えるべきことが三つあります。
- 当事者が何をしたのか。
- 当該作品にどの程度、関わっているか。主役なのか、それ以外か。
- 撮影中もしくは公開前か、公開後か。
以上の要素を個別に検討して判断すべきで、不祥事=即アウトではないはずです。
もう一つ指摘したいのは、媒体や作品の公開方法によっても、個別に判断基準が違っていいのではないかということです。
これまでは、映画は見たい人が自発的に見るものだからいいが、テレビ作品はお茶の間に一方的に流れるものだからと一律にお蔵入りにしがちな傾向がありました。
ただ、今はテレビ作品であっても映画同様、好きなコンテンツを選んで見られるサービスも広がり、若い世代を中心に利用者も増えています。
その意味ではNHKが今年7月、逮捕された俳優が出演した作品について、有料動画配信を再開する方針を表明したことは賢明な判断です。
見る自由と、見ない自由。その両方が担保されることが、何より大切です。
■再放送、久々の姿にホッ
NHKの連続テレビ小説「あまちゃん」のBSチャンネルでの再放送で、最近テレビでは見かけない役者を見て私はホッとしました。ピエール瀧さん。2019年に麻薬取締法違反の罪で執行猶予つき有罪判決を受けたこともあり、「出演部分が削られるのでは」との声もあったからです。10年前の作品でそんなことがあれば、それこそ「じぇじぇじぇ」です。〈喜園尚史〉
(朝日新聞 2023.09.01)