たいちゃんの奥の細道

~人生、すなわち旅也~

登山装備懇話 vol.2  ~レインウェアー編~

2013年08月20日 21時02分28秒 | 山の上
一歩間違えれば、大惨事になる装備です

 今回は「レインウェアー」のお話です。
自分が登山を始めた時の入門書では、「登山の3点セット」と言って
1 シューズ
2 ザック
3 レインウェアー


と書いてあったように思います。
※最近では「4点セット」となり、上記にアンダーウェアーが加わるようです。

山の天気は変わりやすく、風雨から守るためにレインウェアーは欠かすことのできないアイテムの一つとなっています。
雨に濡れると「べたべたして気持ちが悪い」とか、「風邪を引くから」・・・というレベルのお話ではありません。

3,000m級の山に行く場合、濡れた体で風に当たると「死にかねない」のです


<そもそも山の上は寒いんです>
まず、気温について説明します。
気温は標高が高くなればなるほど低くなります。
100m標高が上がれば0.6度下がるそうです。

例えば、夏の朝、平地の地表で気温が32度だったとしましょう。
その時3,000mの山頂では

 32-(0.6×30)=14(度)って事になります。

ちょっと、Tシャツじゃあ、寒いでしょ?

さらに、これで風にあたると体感温度はさらに下がります。
風速が1m/秒増えると、1度、体感温度が下がるそうです。

もし、上記の例で言えば、もし山の上で風速5mの風を受けたら、体感温度は10度を切ってしまうわけです。


<登山は汗をかくんです>
さて、登山は運動ですから当然、汗をかきます。
夏の晴天ならTシャツでも余裕なのですが、少し風でも吹いてたら上に一枚羽織るので、アンダーウェアーは濡れていたりします。
レインウェアーなどを着るとなおさら、アンダーウェアーは汗でぐっちょり濡れてしまうのです。


この汗が「くせ者」!!


汗が蒸発するとき、体温を奪います。これは「気化熱」といいます。
また、服が濡れると熱伝導率が高まり、外気の冷気の影響を受けやすくなるという問題もあります。
気化熱により体温は下がり、やがて意識障害などがでて、行動できなくる事を「低体温症」といい、人の場合中心体温(直腸温)が20度を下回ると、死んでしまいます

つまりこれが「凍死」です。

ちなみに「凍死」はなにも山の上だけでおこるものでも無いようです。
例えば、濡れた服でエアコンの冷たい風に当たり続けても、低体温症になりますし、最悪、凍死の可能性もあります。(そんなミステリードラマもあります。)


<雨は下からも吹き込むもの>
山の上で風雨に会うと、時として下から吹き上げられる風に乗り、下から雨が吹き込む事があります。
これは自分も北岳なんかで経験済みです。上下セパレートのカッパ以外では、下からの雨の侵入が防げず、全身ずぶ濡れになってしまいます。
すると先ほど汗で説明した同様に気化熱で・・・ということになります。


<どんなレインウエアーがいいのか?>
ここで困るのが、「着なければ雨で濡れて、着ても汗で濡れる」って事でしょうか。
少なくとも雨なのにカッパを着なければOUTなのでしょうが、着ても濡れるんだったら、同じじゃない??
という疑問もあるでしょうが、そんな疑問は科学の力で解消します。


防水透湿性素材「ゴアテックス」


ゴアテックスは、ポリテトラフルオロエチレンを延伸加工したフィルムとポリウレタンポリマーを複合化して作り、1平方センチメートルに14億個の微細な孔を含みます。
その最大の特徴は、防水性と透湿性を両立させていることにある。つまり、水蒸気は通すが雨は通さないのです。しかも軽いので「登山に持ってこい」なのです。
アンダーウェアーにしみ出した汗の水蒸気を排出し、雨はシャットアウトする仕組みは、快適そのものです。
恐らく、それ相応の登山用具店で「カッパ下さい」と言えば、十中八九「ゴアテックス」製を勧められます。

ちなみに私のレインウェアーはmont・bell社「ストームクルーザー」を使用しています。



値段はけっこう良い値段(上下で3万円前後、XXLサイズのわたしゃ4万円越え・・・)がしますので、あしからず・・・






最後に記憶に新しいところで、中央アルプスで韓国人グループが遭難した事故で、もうちょっと「雨具は大事」という具体的な説明をします。


7月30日
長野県駒ケ根市の中央アルプス・檜尾(ひのきお)岳(2,728メートル)付近で起きた韓国人登山者の遭難事故では70代の男性3人、60代男性1人の死亡が確認されました。
県警によると、死因は「低体温症」とのこと。
3人が身につけていたのは「薄手のかっぱ」で、登山用の本格的なものではなかったそうです。

 韓国からの登山者は48〜78歳の男性14人、女性6人の計20人。一行は28日に駒ケ根市から入山し空木(うつぎ)岳(2864メートル)を登山後、木曽殿山荘に宿泊、翌29日は午前6時に出発し、檜尾岳から宝剣岳を経て宝剣山荘に向かう行程でした。
 木曽殿山荘の従業員によると、20人のうち大半は、上からかぶるポンチョのような簡易的な雨具を着用して出発したようです。
(引用:毎日JP)



報道では、この日は、風雨で出発から1時間ほどでストックなしでは立っていられない位の風だったようです。
このグループは雨合羽も簡易なポンチョのようなもの。
この日の宝剣岳の気温は11度ほどだったようです。
また稜線での風速は10mとのことですから、体感温度は0度に近いものとなったと想像できます。
韓国では一番高い山でも1,950m、それも済州島ですので、これほど気温が低くなることは想定していなかった可能性も有ります。
また、日本の山の2,000mと3,000mの間に「森林限界(高木が生育できなくなる限界高度)」があります。
3,000m級の山には樹林帯がなく、正に「吹きっさらし」となるので、ポンチョではとても風雨をしのげません。(逆に韓国の山でも岩場はありますが、基本的に樹林帯の中を登る事になります。また天候が悪いときは登山禁止が出るようなことを言ってました。)

つまり、今回の事故は
 1 不十分な雨具で風雨の中行動したため、服が濡れる
 2 気温の低下と気化熱で低体温症となる
 3 体力のない高齢者が行動不能となり、夜間の冷え込みで死に至る

という悪循環が容易に想像できます。


 ちなみに報道では「薄手のかっぱ」が原因のような書き方ですが、ゴアテックスのカッパは、基本「すげー薄い」ですので、ちょっと誤解しているのかもです。

お亡くなりに成られた方々のご冥福を心よりお祈りいたします。
コメント
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