今日の古代文学史の講義では、万葉集への導入として、まず、新海誠の『言の葉の庭』、そして『君の名は。』を話題にし、幾つかの場面をスクリーンに投影しながら、それぞれの映画の中で万葉集の歌がどのように使われているかを説明した。
『君の名は。』のはじめの方に、三葉のクラスの古典の授業のシーンがある。ここで『言の葉の庭』にも登場していた女性教師(というかその人ととそっくりな女性)が「誰そ彼」と板書しながら、黄昏時の語源を説明している。その説明の終わりの方で、教室の男子生徒の一人(声だけで姿は映らない)が「しつもーん、かたわれどきやなくて?」と教師に聞く。すると、「かたわれどき? それはこのあたりの方言じゃない? 糸森のお年寄りには万葉言葉が残ってるって聞くし」と教師、質問した男子生徒が「ど田舎やもんなあ」と応じて、教室に笑いが起こる。
実は、この「かたわれどき(片割れ時)」という言葉がこの映画のもう一つのキーワードなのだということを、後半、三葉と瀧とが糸森で、入れ替わってしまった体でお互いに見えない相手を探し合っていると、にわかに日が翳り、そのとき同時に二人が「かたわれどきだ」と内語するシーンを見せながら説明する。お互いの半身(片割れ)が見えないまま、その「片割れ」を探し続ける愛の物語、それがこの物語の主筋なのだ、ということを気づかせるために。
「このように古典の知識があると、映画をよりよく鑑賞することができるというわけです」と今日の授業を締め括った。来週からは万葉集そのものの解説と鑑賞に入る。