内的自己対話-川の畔のささめごと

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雨の文化誌と気象学のコラボレーション ― 倉嶋厚・原田稔編著『雨のことば辞典』(講談社学術文庫 2014年)

2020-06-01 23:59:59 | 読游摘録

 本書の原本は二〇〇〇年に講談社から刊行された。
 本書の巻末の編著者紹介によると、編著者の倉嶋厚氏は、1924年生まれ。気象庁主任予報官、鹿児島地方気象台長などを歴任。その後NHKの気象キャスターを務める。理学博士。エッセイスト。著書に『日本の空を見つめて』『やまない雨はない』『倉嶋厚の人生気象学』など多数。もう一人の編著者である原田稔氏は、1944年生まれ。郷土史研究をきっかけに、「雨の文化誌」の研究に志す。エッセイスト。著書に『雨の楽しい話』。
 本文庫版あとがきによると、旧版は、倉嶋氏が講談社から原田氏の仕事の成果の監修を依頼されたことがきっかけで生まれた共編著である。原田氏のすでに執筆済みの原稿に倉嶋氏が項目を追加し、さらにそれに多くのコラムを追加することで出来上がった本である。
 旧版誕生の経緯は、『風と雲のことば辞典』(2016年)とともに講談社学術文庫版三部作をなす『花のことば辞典』(2019年)の編者宇田川眞人氏による序言にさらに詳しく述べられている。
 辞典であるから、本文はあいうえお順に並べられた諸項目からなる。主として現代使われている日本語(漢語・方言・気象用語などを含む)のなかから「雨」にまつわることばに限って千九百余語を選び、それらに語義・解説・用例などを加えたものが本文の主要部分である。そのところどころにコラムが組み込まれている。巻末には、「雨の歳時記」としての利用に資するために、四季別索引「雨ごよみ」が付されている。
 凡例に、「エッセイ的な記述を大胆に取り入れ、引く辞典よりも読んでおもしろい辞典を目指した」とあるが、本書は編著者のその狙い通りの一書になっている。
 上に述べたように、講談社学術文庫には、倉嶋氏編著の続編が二書ある。『風と雲のことば辞典』(2016年)と『花のことば辞典』(2019年)。どちらも書き下ろしである。
 学術文庫には、武田喬男著『雨の科学』(2019年 原本『雨の科学―雲をつかむ話』成山堂書店 2005年)も収められていて、両書をあわせ読むことで、雨の文化誌、雨の科学についての知見を広め深めることができる。そうすれば、梅雨の眺めもおのずとこれまでとは異なることだろう。