内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

静寂を深める雨音、沈黙に気づかせる言葉、声なきものの声

2020-06-10 23:59:59 | 雑感

 窓前を覆う樹々の葉を打つ雨の音に耳を傾け、その雨に打たれて顫動する葉をじっと眺めていると、雨音に包まれた室内の静寂が一層深まるときがある。そんなとき、風雨に揺れる枝葉の光景とそれを無言で見つめている私の心とが照応し、景情が一致する。
 沈黙について語ることはできても、あるいは、静寂の風景を言葉で描写することはできても、沈黙と静寂そのものはつねにその彼方にある。ただ、語り得ぬものがあることに気づかせてくれる言葉がある。己が生まれ出て来た沈黙の深みを垣間見させてくれる言葉がある。
 雨音も風音も波音も、鳥たちの囀りも、動物たちの鳴き声も、そして、音楽も、いや言葉さえも、声なきものの声なのではないかと感じられるときがある。その声なきものが時空を超えているとすれば、無数の音と響きに満ちたこの世界のいつどこにいても、それらの音と声を通じて、その永遠に声なきものに私たちは今ここで触れていることになる。