万聖節の休暇明け初日の今日、学部三年生向けの日本語のみで行う授業があった。年度当初の予定を昨日になって変更して(この辺、シラバスに拘束されない自由のありがたみを噛みしめています)、今週から三回、「日本人の死生観」という共通タイトルのもと、「生まれてすぐに消えゆくいのち」「生まれてきた意味」「死者を送るということ」というテーマをそれぞれの回で扱うことにした。
今日は休み明けの初日だから、日本語の音に対して学生たちの脳を再起動させる必要があるかと、いくつかのテレビ番組のサンプルを授業の枕として視聴させた。
金曜日の授業で中間試験前に対馬のことを扱ったのだが、ちょうど対馬をテーマとした10月22日放送の「ブラタモリ」がアマゾンプライムの中のNHKオンデマンドのコレクションで視聴可能だったので、その出だしを視聴させた。テキストや地図や写真だけではわからない今の対馬の風景が映し出され、学生たちも興味を示してくれた。
次に紹介したのが、10月からのクールでいちばん話題になっているドラマ『Silent』の第一話と第二話のダイジェスト版だった。今の日本の空気を感じさせることにもなるかと思って選んだ。それぞれ五分とごく短いダイジェストだったが、驚いたことに、それを見ただけで泣き出した女子学生いた。なんの心の準備もないところに、何か彼女の心に直に触れるものがあったようだ。
私もこのドラマはFODで毎週配信開始されるとすぐに視聴している。目黒蓮の演技がいい。主役の川口春奈はじめ、他の出演者たちも好演。あまり出番はないが、目黒蓮演ずる佐倉想の妹萌を演じている桜田ひよりに注目している。彼女は今後飛躍すると思う。個人的には、聾唖者を演じている夏帆さんが今後どのようにストーリーに絡んでくるのかが特に気になっている。
今日の授業の「メインディッシュ」は清原果耶主演『透明なゆりかご』(2018年)。この作品は昨年度に続き今年の授業でも必ずどこかで取り上げるつもりでいたが、年度当初の予定よりも前倒しして今日にした。すべての回を紹介したいほどの名作だが、それは無理な話なので、30分ほどで作品全体の概要を紹介した後、最終回45分をまるごと鑑賞させた。VPNを使って日本向けネットフリックスで配信中の版を使った。アマゾンプライムでも視聴可能なのだが、ネットフリックスのほうにだけ日本語の字幕が付いていて、学生たちの日本語理解力を考慮すると、そのほうが鑑賞のためには好都合だからだ。
今年の三年生は年度初めから全体として集中度の高いクラスだが、最後まで私語もなくよく観ていた。去年の三年生とは大違いだ。テーマがテーマだけに女子学生のほうがより集中して観ていたのは驚くにあたらないとして、作品に入り込んでしまってすすり泣きしながら、あるいはそれを必死に隠そうとしながら観ている子たちが何人かいたのには再び驚かされた。それはなによりも作品そのものの力によることだが、ほとんど言語の障害なしにストーリーがストレートに理解できたことも大きいだろう。男子学生も概して真剣に見ていた。
学生たちにとって、ちょっと大げさに言えば、一つのカタルシスの経験だったのではないかと思う。