日本の近代化の特異性を主題とする学部三年生を対象とする授業をここ五年間続けている。この授業についてはこのブログでも再三再四取り上げてきた。それは、この主題が私自身にとっても重要だからである。
この間、授業の年間プログラムの基本的骨格には大きな変更を加えることはなかったが、毎年新しい参考文献を追加し、その紹介を授業に盛り込むことで授業内容のアップデートを続けている。
幸いなことに新しい参考文献には事欠かない。それだけこの主題についての関心が高いということなのだろう。
例えば、今月の講談社学術文庫の新刊の一冊は、末木文美士氏の『日本の近代仏教』である。原本は2017年に刊行された中公選書版であるが、今回学術文庫に収録するにあたり、専門的で研究史的な三章が省かれている。
学術文庫版のあとがきをさっそく今日の授業で紹介した。そこには、「今日では、仏教を抜きにして日本の近代を語ることは不可能となっている」と記されている。しかし、それがまだ一般常識になるところまではいっていないというが末木氏の認識である。その間の事情を説明するため、本書の終章「仏教思想と現代」(書き下ろし)は書かれた。だから、この分野にはじめて触れる読者はこの章からよむのがよいだろうと著者自身が言っている。
本書を読めば、「急速な近代化や戦争など、近代日本の栄光と悲惨が仏教にも大きな影を落としていることが知られるであろう。本書は、仏教を切り口に日本の近代を問い直す試みであり、その射程は今現在の日本のあり方にも及ぶ」と著者は続けて述べている。
今年度の後期の授業の一回を本書の紹介にあてたいと思い始めた。