オフィスアワーが始まる午前十時に間に合うように家を出る直前にメールをチェックしたときには特に急を要する案件はなかったのに、それから約30分後に教員室でPCを開いて再度メールをチェックして驚いた。
今日正午から二時までの授業がある建物が、今年に入って政府が提示した年金制度改革案に反対する学生グループによって今朝から封鎖されているという知らせが大学秘書課その他関係各方面から数通ほぼ同時に届いていたのである。
幸い教務課の教室管理の責任者が迅速に別のキャンパスの教室を確保してくれたので、学生たちへの連絡も授業開始一時間半前にはでき、正午からの授業は無事行うことができた。
政府が改革案を提出してから各セクターの組合を中心としてストライキ等反対運動が展開されつつある。先週木曜日19日には全国レベルで大規模な公共交通機関のストライキが行われ、各地でデモ行進が組織された。政府の法案に反対する戦術としてはフランスでは常套手段だが、これだけの規模で行われたのは2018年の大学入学制度改革のとき以来だ。そのときは数週間に亘って大学の主要な建物のいつくかが占拠・封鎖され、後日に補講を行うなど授業にはかなりの影響が出た。
今回は、現在63歳未満のすべてのフランス人のこれからの生活に直接関わる問題であるから、今後も激しい反対運動が予想される。来週火曜日31日にも大規模なストライキが予定されている。
私もフランス国家公務員ではあるが、ぎりぎりで今回の改革案の対象にはならないし、私はむしろできるだけ長く働きたいので、多くのフランス人たちの反応は理解できるものの、それに同調する気はないし、定年を延長する方向での改革はいずれにせよ不可避であると考えている。
私にできることは、ストライキがあろうが教室が封鎖されようが、可能な手段を尽くして、職務である授業を超然と行うことだけである。
と言っておいた上でのことだが、在仏27年で大規模なストライキに見舞われたことは過去にも数度あるが、その都度しばらく都市機能の一部が麻痺するときに生じるあのちょっと祝祭的な非日常的時空間は嫌いではない。ストライキの結果とは無関係に、その間に味わえる束の間の日常的ルーティンからの解放は、社会に鬱積し爆発寸前の負のエネルギーをあるところまでは発散させることにもなり、その限りにおいて、大規模な暴動を発生させないための「安全弁」としても機能している。