【現代語訳】
だから、上にも臼を釣り、米をつくならば、上下の米をついて、杵の上げ下げが無駄にならないにちがいない」と言い終わらないうちに、すぐれている者「さて、釣り下げている臼に米は入ることはできないだろう」と尋ねると「なるほど、その考えを全くしなかった」と。
【平安時代風古文】
しかれば、上にも臼を据ゑ、逆様に臼を釣り、米をつかば、上下の米をつき、杵の上げ下げ、あだになるまじと思案したり」と言ひ果てぬうちに、かしこき者「さて、釣りさげたる臼に米、え入らじ」と問へば、「げにそを思案はつゆせず」と。
「しかれば」は「しか+あれ+ば」を縮めた語で「だから」という訳になる。それくらいですませたいところだが、少々詳しく。「さ・かく・しか」は「そう・こう」と訳す指示語(より詳しく言うと指示副詞)で、「~e(エ段)+ば」は「ので・から・と・(た)ところ」だったね。だから「そうあるので」から「だから」という意味になる。「据ゑ」は「すえ」と読む。確認事項。悪いが予告的な意味を込めて、今は意味が分からなくて良いから次のことを丸暗記してほしい。文法用語は一度聞いておくと本格的に習う時に楽なのだ。今は魔法の呪文で構わない。
「植う・飢う・据う」ワ行下二段(ゑ・ゑ・う・うる・うれ・ゑよ)
「米をつかば」はどう訳すか。「つかば」が「~a(ア段)+ば」なので「なら・たら・れば」と訳すんだったね。「米をつくなら」といったところか。「あだになるまじ」は「あだ」は終わっているね。さっき、見たよね、見たよね。「まじ・じ」が「ないだろう・ないつもりだ・まい」となる。現代語でもかろうじて生きている「まい」を連想の中心に置いておくのも悪くはあるまい。
「言ひ果てぬうちに」は現代でも「見果てぬ夢(見終わらない夢)」という言い方があるあたりから「言い終わらないうちに」という訳が出てくるのだ。正確には
〔未然形+ぬ〕で「ぬ」が連体形のときは、「ぬ」=〔打ち消しの「ず」の連体形〕
という公式があるのも今は丸暗記しておこう。未然形のイメージの基本になっていくから。
打ち消しと未然形と仲が良いのだなとか。ふふふ。
かしこき者「さて、釣りさげたる臼に米、え入らじ」と問へば、
(すぐれている者「さて、釣り下げている臼に米は入ることはできないだろう」と尋ねると)
「かしこき者」は会話の相手だからここでは「おとなしき者」で現代語の「かしこい人」で良い。ここで大事なのは「え入らじ」。まず、「まじ・じ」が「ないだろう・ないつもりだ・まい」だったね。そして、
え~打ち消し できない
という重要な語法・公式があるのだ。ここでは「入ることはできないだろう」という訳になる。さかさまに置いた臼に米を入れるのはできないと言っているわけだ。愚か者が日本一のことを思い付いたというのに「言ひ果てぬうち」にこんなことをいわれるなんて。
さて、「~e(エ段)+ば」は「ので・から・と・(た)ところ」はそろそろ覚えたかな。
そして「~a(ア段)+ば」なので「なら・たら・れば」と訳すんだったね。
この「ば」なんだが、大事なことがある。ついでに「て」も大事なので並行して書いておく。
「ば」は前後で主語が変わることが多い
「て」の前後は主語が同じことが多い
これも文脈把握の一つの手段になるので覚えてほしい。というか、意識して読むと体で覚えるよ。
「と問へば」は「とたずねると」、ここの「ば」で主語が変わっていく。そうでなくても質問の回答者は「おろそかなる者」一人しかいないんだが。こうやって文脈(会話に参加している人からの推測)や形・公式(「ば」の前後で主語が変わる)らを組み合わせて読んでいくと読解力は上がっていく。
「げにそを思案はつゆせず」と。
(「なるほど、その考えを全くしなかった」と。)
「げに」は「なるほど」。「そ」は「それ」。
重要なのは「つゆ~ず」の部分。これはコンビの言葉としてよく出る。
ちなみに「ず」は打ち消しの言葉の代表。言わずともわかるでしょ。
え~打ち消し できない
つゆ~打ち消し まったく~ない
かけて~打ち消し まったく~ない
さらに~打ち消し まったく~ない
おほかた~打ち消し まったく~ない
をさをさ~打ち消し ほとんど~ない
ここで古文の打ち消しは次の通り。文法的に整理はされていなしぞ、念の為。あとで述べるが、語呂合わせのためか。
ざら・ざり・ざる・ざれ
じ・まじ(ないだろう・ないつもりだ)
ず
で(ないで)
ぬ(←連体形)
ね(←已然形)
なし(ない)
これらを私は現役時代(古文の入門者の頃)に一気に覚えていた。
「えー、つゆかけてさらにおほかた、をさをさ」「ざ・じ・ず・で・ぬ・ね・な」である
入門者はここからで良いのではないかと過去の自分を見て思う。「えー、つゆかけてさらにおほかた、をさをさ」の6単語で頻出単語の2%である。一気に行こう。あ。「をさをさ」が「ほとんど」(部分否定)なのは意外と出る。みんな「まったく」と訳すと思うんだね。
というわけで前半は日本一のことを考えたんだな。杵を上下に動かすときに上にあげたところが無駄になる。だから上にも置いて米をつこうというアイデア。問題は「おとなしき者」が言った通り。上に置いた臼に米を入れるのはどうやってやるの? そこまで思いつかなった愚か者なのであった。
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