次の文章を読んで後の問いに答えなさい。
「複雑な現実は複雑なまま扱い、焦って単純化しないこと」というのは私が経験的に学んだことの一つである。「その方が話が早い」からである。話は複雑にした方が話が早い。私がそう言うと、多くの人は怪訝な顔をする。でも、そうなのだ。いささか込み入った理路なので、その話をする。
私は人も知る病的な「イラチ」である。「イラチ」というのは関西の言葉で「せっかち」のことである。どこかへ出かける時も、定時になったらメンバーが全員揃っていなくても置いてでかける。宴会でも時刻が来たら来賓が来ていなくても「じゃあ、乾杯の練習をしよう」と言ってみんなに唱和させる(来賓が着いたら「乾杯の儀に粗相があってはならないので、繰り返しリハーサルをしておきました」と言い訳する)。
そういう前のめりの人間なので、当然ながら話をする時も最優先するのは「話を先に進めること」である。ぐずぐずと話が停滞することも、一度論じ終わったことを蒸し返されるのも大嫌いである。そういう人間が長く対話と合意形成の経験を積んできた結論が「話を複雑にした方が話は早い」ということであった。
多くの人は「話を簡単にすること」と「話を早くすること」を同義だと考えているが、それは違う。話は簡単になったが、そのせいで現実はますます手に負えないものになるということはしばしば起こる。現実そのものが複雑な時に、無理に話を簡単にすると、話と現実の間の隔たりが広がるだけである。そこで語られる話がどれほどすっきりシンプルでも、現実との接点が失われるなら、その「簡単な話」にはほんとうの意味で現実を変成する力はない。
次のことわざらが現実として、簡単な話にしているのはどれか。記号で選び、答えなさい。
ア 「犬も歩けば棒に当たる」という事実から棒には魔術の力を有したもの(ウォンド)と推論とする
イ 「風が吹けば桶屋が儲かる」という事実から桶屋は気象をコントロールできる謎の力を有していると推論する
ウ 「知らぬが仏」という事実から仏の持つ真理を疑ってはいけないと推論する
エ 「花より団子」という事実から団子という食欲の象徴を欲望の在り方全般に広げてよいものと推論する
オ 「千里の道も一歩から」という事実から千里という非現実的なものですら一歩が射程にあると推論する
答 イ
過程の複雑さを表していることわざの代表例が「風が吹けば桶屋が儲かる」となるのがポイント。
※『複雑な話は複雑なまま扱うことについて』についてより。全文はこちら。
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