中国・上海の裁判所が日中戦争勃発前の船舶賃貸契約をめぐつて商船三井の船舶を差し押さえたことは、習近平指導部が自国経済への一定の悪影響も承知の上で、歴史問題での対日攻勢を強めたことを意味する。
中国の裁判所は共産党の指導下にある。
2010年の確定判決に基づく差し押さえが今になって実施されたのは、沖縄県・尖閣諸島と歴史問題で対立する安倍政権に習指導部が譲歩を迫る思惑がある。
習近平国家主席は先月訪問先のドイツ・ベルリンで、日中戦争時に旧日本軍が南京を占領した際に起きた南京大虐殺に言及し「日本は30万人以上を虐殺した」などと述べ、日本を名指しで批判。
来年を「反ファシズムと抗日戦争の勝利70周年」と位置付け、国際社会での対日包囲網構築に力を入れている。
国内では、日中戦争時の強制運行被害者らが日本企業を訴えた集団訴訟を北京の裁判所が3月に受理。
1972年の日中共同声明に明記した中国の賠償請求放棄には民間は含まないとの姿勢を明確にした。
民間訴訟を支援してきた中国人の中心人物は今回の差し押さえに大歓迎の意を
表明。
中国外務省の秦報道局長は4月21日の定例記者会見で、商船三井が戦時中の賃借をめぐる裁判で船舶の差し押さえを受けた問題について「普通の商業契約をめぐるトラブル案件だ」と強調した。
その上で「中日戦争の賠償問題とは無関係だ」と述べ、歴史問題が絡む戦後賠償とは違うとの認識を示した。
また、差し押さえを受けて菅官房長官が記者会見で「中国側の一連の対応は、1972年の日中共同声明に示された日中国交正常化の精神を根底から揺るがしかねないものだ」と不快感を示したことを受け、秦局長は「中国政府として共同声明の各種原則を堅持する立場に変化はない」と確認した。
日中両国政府が1972年9月に調印した日中共同声明で、中国は両国国民の友好のため、日本国に対する戦争賠償請求を放棄すると宣言した。
1995年に銭外相(当時)が「中国政府は個人の賠償請求を阻止しない」と発言したが、「放棄」に民間賠償が含まれるかどうかについて、中国政府は明確に見解を示してこなかった。
ゆがめた歴史問題で対日攻勢を強め、尖閣諸島譲歩狙う中国に対して、日本政府の軟弱な対応は許されない。
ずるがしく、新たな訴訟攻撃を仕掛けてきている。