大阪大の西田教授(眼科学)のチームは8月29日、人工多能性幹細胞(iPS細胞)から作製したシート状の角膜組織を、重度の疾患でほとんど目が見えない40代の女性患者に移植する世界初の臨床研究を7月に実施したと発表した。
干-ムによると、視力は眼鏡などを使えば日常生活に支障のない程度に改善し、拒絶反応などの問題は起きていないという。
角膜疾患は、亡くなった人からの提供角膜による治療が一般的だが、提供を待つ患者は全国で約1600人に上る。
慢性的に不足しており、今回の手法を5年後をめどに実用化し、補完的な治療法にしたいとしている。
角膜は眼球の最も外側にあって異物の侵入を防ぎレンズの役割を果たす直径約11ミリ、厚さ約O・5ミリの透明な膜で、移植を受けた女性は、角膜のもとになる細胞が失われて視力が低下し失明することもある「角膜上皮幹細胞疲弊症」。
チームは、京都大に備蓄された他人のiPS細胞から角膜の細胞を作り、培養して厚さ0・05ミリのシート状にし、7月25日に女性の左目に移植した。
細胞数は数百万個。
臨床研究として比較するため右目には移植していない。
8月23日に退院しており、腫瘍化しないかといった安全性、視力が維持されるかなどの有効性も1年間経過観察する。
1度の移植で生涯、効果が続くとみている。
今年3月に厚生労働省の専門部会が研究計画を了承、年内に2例目、来年にも2例の実施を予定している。
西田教授は8月29日、阪大で記者会見し「1例目が始まったばかりで、慎重に見ていく段階」と述べた。
実用化した場合に治療対象となる患者は数百人程度という。
iPS細胞の利用では、理化学研究所などが2014年に世界で初めて目の網膜の細胞を患者に移植する臨床研究を実施。
京大も神経細胞をパーキンソン病患者の脳に移植する治験を行った。
阪大の心臓病治療や京大の血小板輸血、慶応大の脊髄損傷治療の各計画も実施が認められている。