踊る小児科医のblog

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マラソン中の水の飲みすぎは危険?(飲まないのはもっと危険)

2005年04月16日 | SPORTS
「水の飲みすぎは危険? マラソンで研究結果発表」というニュースが報道されていますが、では一体何をどのくらい飲めば良いのでしょう。 上記の記事の最後に「レース前に食塩2グラム摂取するだけで全然違う」と書かれています。雑誌などにも同じように食塩摂取の必要性が特集されたこともありましたから、この研究結果はそれを裏付けるものであって特に新しい知見というわけではないようです。その前に、記事の中で意味がとりにくい「肥満度指数が20%以下」という部分は、肥満度20%ではなく(それだとやせ型ではなくヒマンだ)、BMIが20以下ということだと思います。

まずは、マラソン中は暑くない日でも相当量の汗をかいていて、多くは蒸発しているのでさほど意識されないが、長い距離を走れば予想以上に体重は減っている。つまり、長距離走では多かれ少なかれ脱水状態になるのが前提。汗は尿と違って電解質の調整範囲が狭いので、汗と共にナトリウムなどの電解質は失われて、低張性脱水(低ナトリウム血症)に傾く。暑い日で1リットル汗をかくと3~4gの塩分が失われるというデータもあるようです。これをイオン飲料で補おうとしても、通常の濃度ではとても補えないし、実際には薄めて飲むことも多い。まして、脱水の治療に使われるような濃いのはとてもじゃないけど飲めない。よって、飲物の濃度によって低張性脱水を防ぐことはできない。ということは、どんな種類の飲物でも、水分量はある程度補われるけれども、低ナトリウム血症は補正されず、濃度の薄いもの(あるいはただの水)を多く飲めば助長されることになる。

一流のスピードランナーは、水分補給といってもそれほどの量は口にせずひたすら走りすぎて、2~3時間でレースを終えるので、水ナトリウムバランスという意味でのダメージはさほど大きくならない(アテネのような過酷な条件でなければ)。東京国際の高岡選手なんて、中盤までほとんど給水してませんでしたよね。それに対して、一般ランナーは4~5時間、あるいはそれ以上かかって、長い時間汗をかき続け、エイド毎にゆっくり給水しながら走ることになるので、更にリスクが高くなる。記事中の、
「最も危険なのはレース後に体重が増えているような選手」
(1)3、4リットルの水分補給(2)スローペース(3)女性
(4)肥満度指数が20%以下のやせ形-などの条件を満たす人は可能性が高い
というのがまさにそれに当てはまるのだと思います。

要するに、記事のタイトルから予想されるような「水を飲みすぎないようにしましょう」ということではなく、必要な塩分をどのタイミングでどれくらい補給するかがポイントだということでしょう。スポーツドリンクがダメなのではなく、それでも足りない。「水だけ」の飲みすぎは危険なレベルの「低ナトリウム血症」に陥る可能性が高い。