熊本熊的日常

日常生活についての雑記

動中の工夫

2011年03月02日 | Weblog
木工は枠に棚板を仮組みする。棚板の組み付けには、当初は隠しザネを用いる予定だったのだが、使用しているエゾマツの材が暴れるので、ビスケットに代えることにした。木が湿度やそれ自体の水分量の変化によって時間の経過とともに形状を変えるのは自然なことだ。だから、木を用いる人間の側がそれに応じた付き合い方をしないといけない。具体的には、この場合なら一気に完成させるということになる。木工を生業としているなら、当然にそのようにするのだろうが、私の場合は趣味で週に一回、2-3時間だけしか木材と付き合うことができない。そこで、木材の変形に応じてその時々に対応策を練ることを繰り返す。

おそらく、物事に完璧を目指す性質の人にとってはフラストレーションがたまることになるだろう。私の場合は「完璧」というものを幻想の一種としか見ていないので、フラストレーションどころか、材の変化を見るのが楽しくて仕方が無い。木の変化以外にも、週一回の木工にはいろいろ楽しいことがある。今回制作中の移動式書棚では、左右の枠で棚板を挟む構造なのだが、枠を組み上げたときには左右が同じ大きさだったのが、組みつけた場所の目違いを修正するのに鉋をかけたり、ヤスリをかけたりしているうちに左右のサイズが微妙にずれてしまった。その上に、材の歪みがある。これで完成するのだろうかと不安を覚えないこともない。これまでのところは、問題が生じる都度、対策を施して着々と工程が進んでいる。

趣味の木工というささやかなことではあるが、完成させるという意志がある限り、当初の想定とは違ったものになりながらも、工程が進捗するということが愉快だ。結局、物事というのは何であれ工夫次第でどうにでもなるのではないだろうか。ふと、以前にどこかで目にした白隠慧鶴の書を思い出した。

「動中工夫 勝静中 百千億倍」
(動中の工夫は 静中の工夫に勝ること 百千億倍)

実際の書は紙の中央に大きく「中」の字があり、その右側に「動工夫勝静中」、左側に「百千億倍」と書かれている。その「中」の大きさに笑いがこぼれてしまう。

なにはともあれ、どのようなことでも楽しく取り組みたいものである。