世の中にはどうしても物差しがないと生きられない人もいるようだ。
その物差しは年齢だったり、役職の上下、学歴、財力や、時には背の高さ、体型、頭髪、顔の作りの善し悪しといった詰まらないものまであるが、相手との間になんらかの物差しがないとうまくコミュニケーションが図れない人もいるらしい。
しかも、その物差しは水平な関係を測る物差しではなく、上下関係を図る物差しであることが多い。
何年か前、海外に団体で行った時のことだ。
ホテルに着き、その場で部屋割りが決められた。
私と相部屋になったのは某放送局の部長だった。
すると、彼がいきなり私にこう尋ねた。
「栗野さん、同じ部屋ですね。宜しくお願いします。ところで、栗野さんの歳はいくつですか」
私は少し戸惑った。
最初の会話にしてはちょっと変な気がしたし、歳をすぐ聞く相手の意図を図りかねたからだ。
「歳ですか・・・。歳が何か関係あるんですか」
私はこの後の会話がどう展開するのか分からずにいた。
すると、彼は
「私より上ですか下ですか」
と聞いてきた。
どうしても年齢を聞きたいらしい。
聞かなくても自分より年上か年下かぐらいは分かりそうなものだがと思いつつも、仕方なく
「○○社長と同じですよ」
とツアー主催者の社長の名を挙げて答えておいた。
すると、次の瞬間、彼は私に向かって「先輩!」と言ったのだ。
これには驚いた。
私は彼の大学の先輩でも、会社の先輩でもない。
敢えて言えば人生を彼よりほんの数年長く生きてきたというだけだ。
だから「先輩」と呼ぶのは止めて欲しいと頼んだ。
しかし、彼は聞かなかった。
以来、旅行中ずっと私のことを先輩と呼び続けたのだった。
面白いのは風呂に入るのにも、寝るベッドの位置も、すべてに私を立てようとしたことだ。
「先輩からお先に!」という具合に。
その言葉を聞きながら思った。
彼は私が年上だから立てているが、逆に年下だったら上から高圧的に物を言うのだろうなと。
礼儀正しさの裏にわざとらしさが見えるものだから煩わしくなり、風呂は交代制にするように提案した。
元アナウンサーだけあり、よく喋るし、喋りはうまいのだが、本心が見えないだけに、最後まで心から打ち解けることはなかった。
察するに、彼はフラットな人間関係を築けないタイプのようだ。
上に弱く下に強い、典型的なサラリーマン人生を生きている人間である。
過去、ここまで露骨なタイプを見たことはなかったので少々驚いたが、周囲を見回せば似たようなタイプは意外に多いことに気付かされた。
いわゆる世渡り上手という奴だ。
これも能力か、と多少のやっかみも込め、真似をしたくても、そんな能力もない自分を自嘲気味に眺めてしまう。
どうせ不器用にしか生きられない人生だから、最後まで不器用さを通し、愚直に生きるしかないか、と。
その物差しは年齢だったり、役職の上下、学歴、財力や、時には背の高さ、体型、頭髪、顔の作りの善し悪しといった詰まらないものまであるが、相手との間になんらかの物差しがないとうまくコミュニケーションが図れない人もいるらしい。
しかも、その物差しは水平な関係を測る物差しではなく、上下関係を図る物差しであることが多い。
何年か前、海外に団体で行った時のことだ。
ホテルに着き、その場で部屋割りが決められた。
私と相部屋になったのは某放送局の部長だった。
すると、彼がいきなり私にこう尋ねた。
「栗野さん、同じ部屋ですね。宜しくお願いします。ところで、栗野さんの歳はいくつですか」
私は少し戸惑った。
最初の会話にしてはちょっと変な気がしたし、歳をすぐ聞く相手の意図を図りかねたからだ。
「歳ですか・・・。歳が何か関係あるんですか」
私はこの後の会話がどう展開するのか分からずにいた。
すると、彼は
「私より上ですか下ですか」
と聞いてきた。
どうしても年齢を聞きたいらしい。
聞かなくても自分より年上か年下かぐらいは分かりそうなものだがと思いつつも、仕方なく
「○○社長と同じですよ」
とツアー主催者の社長の名を挙げて答えておいた。
すると、次の瞬間、彼は私に向かって「先輩!」と言ったのだ。
これには驚いた。
私は彼の大学の先輩でも、会社の先輩でもない。
敢えて言えば人生を彼よりほんの数年長く生きてきたというだけだ。
だから「先輩」と呼ぶのは止めて欲しいと頼んだ。
しかし、彼は聞かなかった。
以来、旅行中ずっと私のことを先輩と呼び続けたのだった。
面白いのは風呂に入るのにも、寝るベッドの位置も、すべてに私を立てようとしたことだ。
「先輩からお先に!」という具合に。
その言葉を聞きながら思った。
彼は私が年上だから立てているが、逆に年下だったら上から高圧的に物を言うのだろうなと。
礼儀正しさの裏にわざとらしさが見えるものだから煩わしくなり、風呂は交代制にするように提案した。
元アナウンサーだけあり、よく喋るし、喋りはうまいのだが、本心が見えないだけに、最後まで心から打ち解けることはなかった。
察するに、彼はフラットな人間関係を築けないタイプのようだ。
上に弱く下に強い、典型的なサラリーマン人生を生きている人間である。
過去、ここまで露骨なタイプを見たことはなかったので少々驚いたが、周囲を見回せば似たようなタイプは意外に多いことに気付かされた。
いわゆる世渡り上手という奴だ。
これも能力か、と多少のやっかみも込め、真似をしたくても、そんな能力もない自分を自嘲気味に眺めてしまう。
どうせ不器用にしか生きられない人生だから、最後まで不器用さを通し、愚直に生きるしかないか、と。