栗野的視点(Kurino's viewpoint)

中小企業の活性化をテーマに講演・取材・執筆を続けている栗野 良の経営・流通・社会・ベンチャー評論。

セブン-イレブン鈴木会長引退会見の違和感(1)

2016-04-13 11:56:07 | 視点
 4月7日、流通小売業界を激震が襲った(というほどでもないか)。セブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文会長兼最高経営責任者(CEO)が突然、引退を表明して記者会見を行った。その会見内容を詳細に知るや、上場企業のトップとも思えないお粗末な内容。ひと言で言えば大いなる茶番。名経営者、カリスマ経営者との名声(?)を欲しいままにした鈴木氏が晩節を汚したというか、見苦しさを露呈した会見だった。
 その見苦しさたるや大塚家具創業者の会見以上で、まさに二番煎じ。「二度目は喜劇」ならぬ茶番にほかならない。よくもまあここまでと呆れ返った。

二度目は茶番劇になる

 両者の会見は実によく似ている。大塚家具創業者の場合、子飼いの部下を何人も引き連れて会見したが、鈴木氏も当初3人での記者会見の席に急遽、古参顧問2人を含めた5人を引き連れての会見となった。古い、子飼いの部下(イエスマン)を引き連れての大名会見で、両者に共通しているのは「俺はこんなにも幹部から慕われている」という思いであり、それを外部にひけらかすことで「世論」を味方に付け、状況を変えたいという意識である。

 引退会見なら一人で堂々とやればいい。それなのに部下を引き連れて行わなければならない所にすでに時代錯誤、見苦しさがある。
 鈴木氏は模倣すべき相手を間違えたようだ。模倣すべきは大塚勝久氏ではなく大塚久美子社長の会見の方だ。正々堂々と一人で淡々と会見を行うべきだった。

「どうやら私の時代は終わったようだ」「Old soldiers never die, but fade away.(老兵は死なず、皆の前から消えていくが、私の魂=理念は皆とともに生き続ける)」とでも言って静かに去れば、賞賛の嵐に包まれただろうに。

 まあ、内幕を暴露した、なんとも見苦しい引退会見だったが、引退時期は5月の株主総会までの間と漠然としているし、取締役会で鈴木氏主導の井阪隆一社長退任人事案が否決されはしたものの、「これは井阪君が信任されたということではありません」と述べるなど、株主総会までの間にまだ一波乱二波乱はありそうな(起こそうとしている)気配だ。

 それはさておき、要領を得ない今回の「騒動」だが、鈴木氏の会見内容から問題点を探ってみよう。

問題は業績か在任年数か

 「騒動」の発端はセブン-イレブン・ジャパン(以下セブンイレブン)の社長交代人事である。鈴木会長が井阪隆一社長兼COO(最高執行責任者)に退任を求めたのだが、その理由は「セブンイレブンの社長は、これまで最長で7年間の任期」という暗黙の了解(慣習)で来ているから、井阪社長も在任期間が7年になったから辞めろというもの。

 これは大手企業ではよくあることで、在任期間5年で交代という例も多いから、このこと自体はあながちおかしいとはいえない。井阪氏もそう考えたのだろう。鈴木会長から辞任の打診を受けた時、一度は了解したようだ。ところが、その後態度を一変させ、辞職拒否に動いたことから両者の確執が始まり、辞めろ、辞めないの騒動に発展した。

 井阪氏の会見がない(執筆時点)から以下は憶測になるが、鈴木会長が井阪氏を辞めさせようとしたのは単に在任期間の長さだけではなく、何か他の意図がありそうだと感じ取ったからではないだろうか。

 一般的にトップが交代するのは不祥事か業績悪化の責任を取って辞めるパターンと、業績がいい時期に交代のどちらかである。後者の場合はバトンタッチが会社の業績その他に影響を与えないと思われるからであり、スムーズなバトンタッチはこの時期に行われることが多い。

 では今回の社長交代はどちらに該当するかと言えば明らかに後者である。井阪氏が社長に就任して以降、好業績を続けているわけで、スムーズに後継にバトンタッチするには絶好のタイミングといえる。
 ただし、この場合、後継は若返るのが一般的で、逆の場合は業績悪化等の責任を取って辞める場合に見られる程度である。

 今回の人事案で挙げられた後継社長候補は古屋一樹副社長。井阪氏が58歳なのに対し、古屋氏は66歳。これでは若返りどころか逆である。ちょっと待って、と思うのが普通だ。
 これってもしかするとショートリリーフ? その先に待っているのは何? と井阪氏が考えたとしてもおかしくはないだろう。同じように感じた人は株主の中にもいたようだが。




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