【いくつになってもアン気分】

 大好きなアンのように瑞々しい感性を持ち、心豊かな毎日を送れたら・・。
そんな願いを込めて日々の暮らしを綴ります。

行間にたゆたふ香気

2012-04-12 17:43:17 | 心の宝石箱








「あら、あたしんち、灰皿ってものがなくて、ホゝ」
と笑って加代が、これも桑の茶棚の戸を
開きかけると・・・
(中略)
「はい、これを灰皿になすってよ」
と信也の膝の近くへ差し出したのは、
茶棚から出した、1枚の小皿、
おっとりした白磁に蘭の花の染付け、
いい陶器の質だった。
「ほう、こりゃあ、なかなかいい趣味ですね、
高いでしょう」
「ホゝ、そうでしょうか、
でもお値段は言えないの、万珠堂の半端物はんぱもの
格安品から見つけて来た代物ですから」                   
                 【吉屋信子作「良人の貞操」】





   春酣(たけなわ)、
  春爛漫(らんまん)、
  春麗(うらら)、山笑う・・。

   今日は、春の季語を思い切り
  並べても飽き足らないほどの
  春らしい陽気となりました。

   そして何よりほっとした事。
  昨日の雨が 「花散らしの雨」
  とならなかった事です。

   さすがの雨も桜のあまりに
  もの美しさに、気を遣って
  くれたのかも知れませんね。

   こんなお天気ですから
  外出したいのはやまやまなの
  ですが、今日は生協の日。

   留守なら玄関先へ・・
  という約束になっていますが、
  余程の急用でない限り
  在宅する事にしています。

   今日は風に揺れる小さな花、
  「花韮(ハナニラ)」 が開花しました。
  毎年忘れずに同じ場所に。今、続々と開花のスイッチが入ったようです。







   


   さて、吉屋信子作 「良人の貞操」、読了。
  これまでに比べ、随分、時間がかかってしまいましたね。

   再三、お伝えしていますように、部屋の片付けに追われ、
  それより何より冬が終わり春になりますと、
  どうしても戸外に気持ちが奪われてしまうのです。

   従って家の中でゆっくり本を・・という気持ちに
  なかなかなれなくなってしまって。

   ~なんて言い訳は、この位にして。
  この 「良人の貞操」 は以前にも触れましたが、
  少々珍しい題名です。「妻の貞操」 はそうでもありませんが。

   でも、貞操という言葉自体、
  現在では死語になりつつあるのでしょうね。
  ある意味、素敵な言葉に思いますけれど。

   この小説の時代設定は昭和12年。
  当時にすれば、画期的な題名ではなかったのでしょうか。

   貞操は女性だけに求められ、男性にまで・・
  という社会通念はなかった筈ですから。

   この作品は、未亡人の恋を描き、
  そこに女の人間としての姿を見ようとした・・。

   所謂(いわゆる)、「良人の貞操」 という題名の中で
  未亡人の貞操を描いたのでしょう。

   図(はか)らずも今日の引用文は、その未亡人(加代)と
  邦子の良人(信也)の会話になってしまいました。
  加代は色々な事に造詣が深いものですから、つい。

   だからと言って加代の方に共鳴した訳ではありません。
  妻の邦子の方が私は好きです。

   邦子は信也と加代の間に出来た子供を引き取り、
  自分の子として育てるという、本当に出来た女性。
  そうそう、話が前後してしまいましたが、邦子と加代は親友です。

   このパターンは、今でも良くある事ですが、
  当然の事ながら1番悪いのは、信也ですね。
  邦子の気持ちは、いかばかりだったでしょう。

   それにしても、こんな内容の小説でしたら、
  ドロドロしたもので、後味の悪いものになったに違いありません。

   不思議な事に吉屋信子の作品にはそれがありません。
  寧ろ爽やかささえ感じて。

   春ですから春物に模様替えをしようと思ったのですが、
  セピア色の部屋もあった方がいいかも・・と思い直しました。

   今日は、手描きの薔薇に囲まれて。
  次は同じく吉屋信子の 「家庭日記」 です。