声の仕事とスローライフ

ただ今、仕事と趣味との半スローライフ実践中。遠方の知人友人への近況報告と、忘れっぽい自分のためのWeb忘備録です。

日傘の女

2013-02-07 18:26:17 | テレビレポーター、キャスターの仕事
私が心霊シリーズのレポーター時代に一緒に仕事をした

テレビ局のプロデューサーFさんというのがとても変わった人でした。

一緒に歩いていると、

「ホレ、おユミ。前から来ているあの女なぁ、人間とちゃうで….」

そんなことを言っては驚かすのです。

詳しく訊いてみると、
ある日ある時から“それ”が見えるようになったらしい、

この世の人たちではない人たちが見えるようになった、というのです。

 顔立ちは芥川龍之介に良く似ていて、当時、50歳くらい、

飄々とした痩せ型のFさんに見えるようになったのは、

胃のほとんどを切除する、
という大手術を受けたあとからだというのです。

 それに気がついたのは、
まず手術後、自分ではじめてトイレに
行けるようになった時、

病院で男子用のトイレで誰もいないなと思って空けて用を足していると
目の前に見知らぬ老人が立っていたり、
真夜中に病院の廊下で子供が遊んでいたり….。

最初は、ヘンなことばかり起こるなぁと思っていたそうですが、

そのうち慣れてしまって見えることが楽しくなったというのです。

最初のうち、冗談めかして話すので、私は全く信じていなかったのですが

ある日、やはり一緒に梅田の地下街を歩いている時に不思議なことがありました。

「ホレ、前から来ているカップルの後ろの女、見てみ、恨めしそうな顔しているやろ

あれは、あの男が昔別れた女だな、
相当、恨んでんなぁ」

私には、その時はまったく見えなかったのですが、

それから別の日のある夏の日の夕方ちかく、
やはり仕事帰りに地下鉄の駅に向かって歩いていると、

後ろからやってきたFさんが、
私をちょんちょんとつついて

「この時代に下駄はおかしいよなぁ」

とつぶやいた彼の視線の先に・・・
日傘をさしてゆっくり歩いてくる女の人。

夏物の白っぽいワンピースに素足、
そして、足元は何故か赤い鼻緒のついた下駄、

すれ違う時、私には顔は見えなかったのですが、そのプロデューサーがいうには、

「なあ、普通に見えても、どこかちょっとへんだろ?ああいうのはこの世の人間と違う。ふっと振向くともう、その場所にいなかったりするしな….。」

それを聞いてすぐに、振り返ってみたのですがその言葉通り、

今、普通に見えていた人がいない、
その前を歩いていたOL風の二人組みはいるのに、

その後ろにいたはずのあの日傘の女の人が、どこにもいないのです。

目の錯覚にしては、妙にあの赤い鼻緒の白い素足が眼に焼き付いて、

その時のことが今でも、忘れられません。


清水由美 

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする