「今日は痛くなかったよ、全然…あの先生はウマイね!」
「それは良かったです!どこも異状なしでしたしね!」
内視鏡検査の待合コーナーで眠気でボーっとしながら順番を待っていると
今終わったばかりの高齢男性と看護師の会話が左手奥から聞こえてきた。
待合コーナーで背中を丸めて座っていた妻と思しき女性に近寄りながら、
その声は一層大きくなった。
「うまい先生だったよ!痩せているけどね!」
妻らしき人は周りに気遣ってか、何も答えなかったようだが、
私は聞きながら
(痩せてるとか太ってるとか関係あるんだろうか?)
と漠然と思った。
そして、
(順番からすると今終わったばかりだと言うことは、私の時にも同じ検査医かも…)
と半ば期待した。
私の順番は14:00の予定だったが、大幅に遅れていた。
前の人にどうやら異状が見つかったようだ…
約1時間待たされて、出てきたのは足元もおぼつかない高齢男性だった。
大きな身体を支えるように付き添っていた看護師がポリープを取ったような話をしていた…
1時間も腸の中をスコープが動き回り、ポリープを見つけて切る作業をしていたのだ。
私も経験者だが、
(確かに疲れるよなぁ…)
健常な腸の場合なら、さほど疲れないのかもしれないが、
手術を経験した歪な形の腸では、スコープがスムーズに通らず、どこかの腸壁に引っかかって痛みが出る。
その時の痛みだが、一瞬とはいえ、かなり痛い。
腸は痛みに鈍い器官だと聞いていたが、実際に経験すると、
もう二度とこんな検査を受けるものか、と思うほどのレベルの痛みだ。
(それも、今回で終わりにしたい)
そう思いつつ検査室に入った。
「◯◯です、よろしくお願いします。」
モニターを正面にして横向きで寝ている背中の辺りから担当医の声がした。
しっかりしたバリトンだった。
チラッと振り向いたが、
メガネをかけた落ち着いた風貌の医師だった。
(痩せてはいないなぁ…)
どうやら、さっきの《うまい先生》とは別人のようだ。
あぁ、またもや《まな板の上の鯉》の心境である。
スコープは途中まで順調に進んでいったが、案の定いつものところで壁にぶち当たったようだ。
急激な痛みが襲ってきた。
「ここを押さえてください」と医師が看護師に指示を出した。
看護師の手が上腹部をギュッと押さえた。
痛みがあるのは中腹部だが、上腹部を押さえるとその先の腸が開いてスコープが通りやすくなるのだ。
確かに理にかなっている。
そう思いつつ、早く終わらないかと願った。
スコープは一番奥まで行ってから帰ってくる途中に画像を撮影する。
掃除しながら撮影するぶん、時間がかかる。
行く時は痛みに耐えなければならないケースが多いが帰りは所要時間の長さに耐えねばならぬ。
それがいつも以上に長かったのは、
いつの間にか《研修医》らしきスタッフが近くにいて担当医がいちいち説明していたからだ。
私の場合、
ハキハキしていて「YES」「NO」がわかりやすいせいか、
研修医が立ち会うケースが非常に多い。
実は昨年の内視鏡検査後に、
主治医に「痛くて痛くて我慢できませんでした」と訴えた。
多分、それで腕のいい担当医をつけてくれて、ついでに今後のために研修医を立ち合わせたのではなかろうか…
考えすぎか?
検査後の画像診断では、
「縫合箇所もキレイでした」
「コレでひとまず完治ですね」
との主治医の言葉に喜んだのも束の間、
「他の病気にも気をつけましょう」
と言われ、
(そのほかに病気はないはずだけど…)
と思いつつ主治医の見せる画像に注視すると
「胆石と胆のう腺筋腫症、それと膵嚢胞がありますね」
とのこと。
胆石と膵臓に嚢胞があるのは10年前からCT検査の度に指摘されていたが、
胆のう腺筋腫というのは初耳だった。
「胆嚢の壁が厚くなる病気です」
と主治医。
「それ、病気なんですか?」
と訊くと、
「緊急性はないので年に一度くらいはCT検査を受けてください」
との事。
まぁ、内視鏡検査に比べればCT検査なんてどおってことない。
全く病院と縁が切れると逆に不安になる。
腸を労わりつつ新しい年を迎えたい。
冷えは禁物だ。
我が家のM嬢は、初めてのコタツが大のお気に入りらしく、
入ったらなかなか出て来ない。
以前の飼い主さんは外国人だったから、コタツはなかったのかな。