....午後 浦和に用事で行ったら時間を間違えていてすでに終わったあとだった。それでガロで髪の手入れをすることにした。技術者の杉山さんはわたしのセルロイドの人形のような髪 傷んでプラスティックみたいな髪を手にため息をついた。「切ったほうがいいね。1/3くらいカットしましょう」「いや」とわたしは言った。マリア・マグダレーナを語るためにあの暑い暑い夏も長いまま耐えたのだもの、3月までは切れない。
それですこしカットし いつもの倍の時間をかけてトリートメントパーマをかけてもらった。「家庭画報」のグラビアページの豪華なイブニングドレス、一流パティシェの美味しそうなクリスマスケーキ、フラワーデザイナーの凝り過ぎたクリスマスリース....あまりきれいでほんものに見えない まるで蜃気楼のような世界を眺めながら....
終わったあとでツンツンカットの見習いの男の子がシャンプーをしてくれた...やさしく、やさしく。 マッサージ そしてタオルドライをしてムースをつけ髪を掌に捧げるようにととのえる。オレンジ色のオーラにつつまれているように充ちたりてわたしは居た。鏡に映る自分の顔を見て わたしははっとした。とても美しくみえた。精霊の女王のように威厳があって微笑んでいた....そのとき先輩の女性がドライヤーを持って彼と交替したのだ。
彼女の手が事務的にわたしの髪をくしけずる...途端に魔法は消えてわたしは応分のすこし疲れた中年の主婦に戻った。...あれはなんだったのだろう、いったい...わたしはしばらく考え込んだ。....あのときわたしはたしかにしあわせだった。...とてもたいせつにされている感じがした....あの男の子はふつうに自分の仕事をしただけなのかもしれない。...あたりまえのことをあたりまえにする...それだけなのかもしれない...ひとがひとをしあわせにするってそんなことなのかもしれない。だけれど彼もしあわせそうだった。それがヒントかもしれなかった。
ふわりとやさしくエンジェルが舞い降りるように 傍らにいて.....やさしいしぐさと微笑みでこころをこめてなにかができたら わたしもエンジェルになれるだろうか....彼のように...。お茶を煎れて手作りのスコーンやケーキを手製のナフキンにのせて...テーブルには四季咲きのばら....望まれれば語るフェアリーテール...ユーモアとウィットの笑い話...そうでなくともごくふつうにあたりまえのことをあたりまえに....それだけで充分でそれだけしかしなくていいのなら...
白い天使がおおきなつばさをひろげて 灰色の空から舞い降りる幻影。
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