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遠い森 遠い聲 ........語り部・ストーリーテラー lucaのことのは
語り部は いにしえを語り継ぎ いまを読み解き あしたを予言する。騙りかも!?内容はご自身の手で検証してください。
 



   能登はとりわけ因縁の深い土地のように思われます。七年前...たった一度のパーソナルストーリー「月の公園」で語ったようにわたしは自分のもっともやはらかなみずみずしい心を能登に置いてきてしまったのでした。昨年RADAで一週間金沢に滞在したとき、ワークショップのあいまに七尾まで行ったのですが...そこでわたしが30年前、真冬に降り立ったのは穴水であったことがわかったのです。...わたしはまだ公園で彷徨っているであろうわたしをいつか必ず迎えに行かねばなりません。

   今回の旅は能登半島のちょうどその七尾あたりまでの旅でした。8日 上越新幹線から越後湯沢で「はくたか4号」に乗りました。一昨年 RADAの帰り櫻井先生と落ち合って高岡の神保さんの主宰の会に語りに行かせていただいて以来です。わたしは在来線の特急がじつはかなり好きです。そこから南砺の相倉合掌に向かいました。村の広場に迎えにきてくれた民宿「三五郎」の....おさだおばちゃんを彷彿とあせるあるじに導かれて着いたのは三層の合掌造りの家...家の前にはこんこんときれいな水が涌いています。

   湧水に恵まれたこの地のごはんのおいしかったこと 囲炉裏で焼いた岩魚のおいしかったこと 滋味ゆたかないものつるや固豆腐、山うど。地酒もまこと身体に染み渡りました。夜 懐中電灯をたよりに五箇民謡を聞きに行きました。有名なこきりこ節は田楽から発祥し...後醍醐天皇の御霊送りのときに奏上され 五穀豊穣を祈ったとか....こきりこささらを手に狩衣姿で踊るこきりこ節に目も耳も奪われました。

   朝まだき やまあいの村を歩きました。御堂の足もとに群れ咲く白菊 山に入らせまいとするかのように乱れなびくすすき...つつじの娘が語れると思いました。そののち 金沢能楽堂に向かいます。音楽堂の総合プロデゥーサーをなさっている先生は埼玉の川口から通っておられるそうです。その説明によれば....明治時代 日本の代表的な芸能が猿楽という名ではまずいということから能楽になったとのことでした。期せずして田楽、猿楽、能楽の流れを見せていただいたわけです。それから「仏師」という狂言に大笑いして兼六園へ向かいます。兼六園では松に恒例の雪吊りが施されていました。

   疲れたわたしは同行のみなさんと別れ カフェに入りました。先客の水際立った美貌のひとがひがし町のお茶屋「華羅屋」の女将だったのです。金沢には格式の高い東のほかに主計町にも御茶屋があります。この写真は東町です。お茶屋街には風呂屋が三軒ほどあってそのうちに一軒はカフェに改造されていましたが 二軒はまだ営業していました。お姐さんたちは紺の暖簾をくぐって湯屋に行き神社やお寺さんに手をあわせ後生を願いお商売に励んだのでしょう....

   遠からぬ立山連峰にも弥陀ヶ原があるそうです..連子窓やお茶屋の磨り減った框を覗き見ると遊女の悲恋を語った...「弥陀ヶ原心中」が思われました。そのあと向かったのは能登一ノ宮気多大社です。2100年の歴史があるこの神社のうしろには入らずの森という禁断の聖域があり 3500年前のまま?なのだそうです。奥宮がある...ということはこの森そのものがご神体なのかもしれません。古い神社では山そのものがご神体であることが多いのです。この宮司さんも偶然さいたまの方でした。また、ここの巫女さんたちは他の神社とくらべてどこか違うように感じました。凛として匂やかでした。

   この日の宿はプロが選ぶ日本の宿連続一位....おもてなしの宿加賀屋です。ふかふかの座布団が二枚重ねになっていて座るとこけてしまいそうです。お部屋係の利美さんは生き生きとした笑顔のとても親切な女性でした。....けれどもわたしは民宿「三五朗」のせんべい布団と囲炉裏がなつかしかった。ほんとうのおもてなし ほんとうのサービスってなんだろう...と同行の母に問いかけましたら「真心じゃないの...あのおばちゃんには真心があったよ」というのです。...とたんにわたしはお茶屋街のちいさなお寺にかかっていたことばを思い出しました。....体温のあることばは聞くひとの心に響く....というようなことが書かれてあったのです。かたちではない体温のあるサービス かたちではない語り....。

   翌早朝 港の突端に出て思い切り声を発しました。藍色の日本海と灰色の空.....群れ飛ぶ海鳥....鳶が悠然と空を切ります。....空飛ぶ鷹にゆだねたるわが名コルマックの名の力で 君が心を引き裂かせよ♪ わたしはクレヴィンの竪琴を歌い語っていました。....からだと心と魂で語る....そのほかにもうひとつ忘れてはならないものがあるように思います。...それは自然です。...ものがたりは大地に根ざしたもの....光と闇と風と...森と山 川と谷間 水と火とひとびとが織り成すものなのではないでしょうか....やがて雲の縁が黄金に染まり 長い時が経って突如太陽が躍り出ました。一分にも満たない時間でしたが 海上にひとすじ金色の道が出現しわたしの足元の海面からはるか水平線..までどこまでもつづいていました。

気多大社 

能楽堂  

加賀屋  

茶屋街  

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