石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

中国、世界最大のガス輸入国に:BPエネルギー統計2019年版解説シリーズ天然ガス篇 (16)

2019-08-26 | BP統計

BPが毎年恒例の「BP Statistical Review of World Energy 2019」を発表した。以下は同レポートの中から天然ガスに関する埋蔵量、生産量、消費量、貿易量及び価格のデータを抜粋して解説したものである。

 *BPホームページ:

http://www.bp.com/en/global/corporate/energy-economics/statistical-review-of-world-energy.html

 

(3) LNG貿易

(後続に追い上げられる輸入1位の日本と輸出1位のカタール!)

(3-1) 2018年のLNG貿易

(図http://bpdatabase.maeda1.jp/2-4-G02.pdf 参照)

 2018年の全世界のLNG輸出入量は4,310億㎥であった。輸入を国別でみると最も多いのは日本の1,130億㎥であり輸入全体の26%を占めており、第2位は中国735億㎥(シェア17%)、第3位は韓国602億㎥(同14%)である。中国のLNG輸入量は年々増加しており、2017年には韓国を追い越して世界2位の輸入大国になっている。一方日本のLNG輸入量は減少或はほぼ横ばい状態にあるため中国との差は年々縮まっている。因みに日中韓3か国だけで世界のLNG輸入量の57%を占めている。第4位はインドでその輸入量は306億㎥、第5位は台湾(228億㎥)とアジア、特に極東の国々が上位を占めており上位5カ国のシェアを合計すると7割に達する。これらアジアの国々に次ぐのはスペイン(150億㎥)、フランス(131億㎥)である。

 

 一方国別輸出量ではカタールが最も多い1,048億㎥であり、世界の総輸出量の24%を占めている。カタールに次いで輸出量が多いのはオーストラリア(918億㎥)である。両国の順位は前年と変わりないが、対前年増加量はカタールの14億㎥に対し、オーストラリアは160億㎥と大幅に増加している。輸入国、輸出国とも1位と2位の差は縮まっている。輸出国の第3位以下はマレーシア(330億㎥)、ナイジェリア(278億㎥)、米国(263億㎥)と続き、特に米国は対前年でほぼ倍増し、輸出国の順位も前年の8位から5位に躍進している。

 

(注)ここに掲げた数値は純輸出入量であり、輸入と輸出双方がある場合は両者を相殺した数値とした。例えば米国の場合2018年のLNG輸入量21億㎥に対して輸出量は284億㎥であり、差し引き263億㎥の輸出となる。因みに2017年の米国のLNG輸出入は輸入22億㎥、輸出174億㎥であり輸出量ベースでは2017年は110億㎥の増加であった。

 

(続く)

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

        前田 高行         〒183-0027東京都府中市本町2-31-13-601

                               Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                               E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

中国、世界最大のガス輸入国に:BPエネルギー統計2019年版解説シリーズ天然ガス篇 (15)

2019-08-25 | BP統計

BPが毎年恒例の「BP Statistical Review of World Energy 2019」を発表した。以下は同レポートの中から天然ガスに関する埋蔵量、生産量、消費量、貿易量及び価格のデータを抜粋して解説したものである。

 *BPホームページ:

http://www.bp.com/en/global/corporate/energy-economics/statistical-review-of-world-energy.html

 

(2000年~2018年の間に1.8倍に伸びた天然ガス貿易!)

(2)天然ガスの貿易量(2000年~2018年)

(図http://bpdatabase.maeda1.jp/2-4-G01.pdf 参照)

 2018年の世界の天然ガス貿易の総量は9,430億立法メートル(以下㎥)であり、内訳はパイプラインによるものが5,120億㎥、LNGとして取引されたものは4,310億㎥であった。パイプライン貿易が全体の54%を占めており、LNG貿易は46%である。天然ガス貿易に関与している国は多数にのぼるが、これらの国の中には日本のようにパイプラインによる輸入がなく全てLNG輸入に依存している国がある一方、カザフスタンのようにパイプラインによるガス輸出のみを行っている国、更には米国とカナダのようにパイプラインで相互に輸出と輸入を行っている国、あるいはカタールのようにLNG輸出から始まり今や近隣国にパイプラインによるガス輸出も行っているなど様々な形態があり、天然ガス貿易は多様化している。

 

 2000年以降の天然ガスの貿易量を見ると、2000年に5,280億㎥であった貿易量は2004年に6千億㎥、2007年に7千億㎥を突破した。しかし同年以降は伸びが鈍化し、8千億億㎥に達したのは2016年であった。2017年、18年には急増し2018年の貿易量は9,430億㎥に達している。、2000年の1.8倍に達している。因みにこの間のパイプラインの伸びは1.3倍に対し、LNG貿易は3.1倍と言う高い伸び率を示している。

 

2000年と2018年を比較するとパイプラインによる貿易量の伸びは1.3倍であったのに対してLNGの伸び率は3.1倍である。LNGは最近の伸びが特に著しく2010年には対前年比21%という高い増加率を示している。天然ガス貿易はパイプライン或いはLNG設備が完成すれば貿易量が飛躍的に伸びるという特性があるが、LNG貿易は近年ロシア、豪州の設備新設或は米国のシェールガス液化等により供給力が増加したことが貿易量の増大につながっている。このような貿易構造の変化の結果、貿易全体に占めるパイプラインとLNGの比率は2000年にはパイプライン73%、LNG27%であったが、その後LNGの比率が徐々に増加、2006年には30%を超え、2018年はパイプライン54%に対しLNG46%とほぼ均衡しつつある。

 

(続く)

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

        前田 高行         〒183-0027東京都府中市本町2-31-13-601

                               Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                               E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

石油と中東のニュース(8月25日)

2019-08-25 | 今日のニュース

(参考)原油価格チャート:https://www.dailyfx.com/crude-oil

(石油関連ニュース)

・中国、米原油に5%課税。WTI原油 $53.24に下落、Brent原油との価格差拡大

(中東関連ニュース)

・英、ペルシャ湾に3隻目の戦艦派遣

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

中国、世界最大のガス輸入国に:BPエネルギー統計2019年版解説シリーズ天然ガス篇 (14)

2019-08-23 | BP統計

BPが毎年恒例の「BP Statistical Review of World Energy 2019」を発表した。以下は同レポートの中から天然ガスに関する埋蔵量、生産量、消費量、貿易量及び価格のデータを抜粋して解説したものである。

 *BPホームページ:

http://www.bp.com/en/global/corporate/energy-economics/statistical-review-of-world-energy.html

 

4.世界の天然ガス貿易

(天然ガス貿易にはパイプラインとLNGの二つのタイプがある!)

(1)はじめに:天然ガス貿易の二つのタイプ

天然ガスは石油と異なり大気中に拡散することを防ぐため密閉状態で搬送しなければならない。この場合輸送方法によりパイプラインで気体状のまま搬送する方法若しくは液化して特殊な船(LNGタンカー)や運搬車で搬送する二種類がある。パイプライン方式は常温で気体状のガスを生産地と消費地をパイプで直結して搬送するものであり、LNG方式は生産地で極低温で液化したガスを密閉容器で消費地に搬送するタイプである。

 

パイプラインによる貿易は古くから行われている。但しパイプラインを敷設するためには生産地と消費地が陸続きであるか比較的浅い海底(又は湖底)であることが条件である。パイプラインによる天然ガス貿易が広く普及しているのが北米大陸の米国・カナダ間の貿易である。ヨーロッパ大陸でもオランダ産の天然ガスを各国に輸出するための天然ガスパイプライン網が発達し、同国の生産が衰退するに従い新たな供給地としてロシア及び中央アジア諸国とのパイプラインが敷設され、或いは地中海を隔てた北アフリカとの間で海底パイプラインが敷設され、現在ではこれらのパイプラインが欧州における天然ガス貿易の中心を成している。

 

これに対して天然ガスの生産地と消費地が離れており、しかもその間に深海の大洋がある場合は両者を結ぶパイプラインを敷設することは不可能である。そのために開発されたのが天然ガスを極低温で液化し容量を圧縮し効率よく輸出するLNG貿易である。LNGは生産現地における液化・積出設備、LNG運搬専用タンカー並びに消費地における積卸・再ガス化設備のための高度な技術と多額の設備投資が必要である。そのためにも顧客との長期的かつ安定的な販売契約が事業の成立と継続のための重要条件である。

 

このような制約のためLNG貿易の歴史は比較的新しく本格化したのは中東のカタールと日本の間で1997年に始まった事業からである。なお最近ではLNGのスポット取引が普及しつつあるが、三国間貿易を行う国ではLNGタンカーの確保あるいは中間貯蔵・入出荷設備の建設等に原油の場合とは比較にならない多額の初期費用がかかることに変わりはない。

 

(続く)

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

        前田 高行         〒183-0027東京都府中市本町2-31-13-601

                               Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                               E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

石油と中東のニュース(8月23日)

2019-08-23 | 今日のニュース

(参考)原油価格チャート:https://www.dailyfx.com/crude-oil

(石油関連ニュース)

・オーストラリア、ホルムズ海峡有志連合に参加表明。期間限定で駆逐艦等を派遣

・ノルウェー外相:米国のホルムズ海峡有志連合参加要請を検討中

・イラン大統領警告:石油輸出ゼロになれば国際航路の安全は担保できない

(中東関連ニュース)

・トルコ、9/16、アンカラでイラン、ロシアとシリア問題首脳会議を開催

・イスラエル、韓国とアジア地域初のFTA締結

・エジプト、カイロのタハリール(革命)広場を化粧直し

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

JXTG/出光興産と五大国際石油企業の2019年4-6月期業績比較 (3)

2019-08-22 | 海外・国内石油企業の業績

(注)本レポートは「マイ・ライブラリー」で一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0476MajorJxtgIdemitsu2019AprJun.pdf

 

(生い立ちの違いで生産量に巨大な格差!)

4.上流・下流部門の業績比較

 JXTG及び出光は元来石油精製事業を専業とし市場も日本国内にとどまっていた。その後、吸収合併を重ね或はエネルギー事業の多角化を進めた結果、例えばJXTGは日本鉱業の吸収合併により非鉄金属事業が同社の事業の一翼を占めている。また出光は事業多角として豪州石炭事業或は高機能材などに手を広げている。

 

 これに比べメジャーズは創業当初から石油・天然ガスの開発生産に取り組み、また世界を相手に事業展開を行うエネルギー専業企業としての長い歴史を有している。JXTG、出光両社も石油天然ガスの開発に取り組んでいるが、メジャーズなど世界のエネルギー企業に比べて大きく出遅れ苦戦を強いられている。

 

メジャーズと日系2社の原油天然ガス生産量、上流部門利益及び下流部門の利益は以下に見るとおり巨大な格差がある。

 

4-1.原油・天然ガスの生産量(図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-5-15.pdf 参照)

 メジャーズ5社の4-6月期の石油天然ガスの合計生産量を石油換算(B/D)で見ると、最も多いExxonMobilは391万B/Dであり、最も少ないBPも263万B/Dを生産している。これに対してJXTGの生産量は9.9万B/D(石油3.5万B/D、ガス6.4万B/D)であり、出光は2.7万B/D(全量石油)である。

 

 

4-2上流部門の利益 (図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-5-13.pdf 参照)

 ここではJXTGについては決算書が示すセグメント別業績の内、エネルギー事業(いわゆる石油下流部門)と石油・天然ガス開発事業(いわゆる上流部門)の営業利益を取り上げ、また出光もセグメント別営業利益の燃料油部門と資源部門を取り上げてメジャー5社と比較する。

 

日系2社の上流部門の利益はJXTGが69億円(6,300万ドル)、出光は67億円(6,100万ドル)であった。これに対してメジャー5社の上流部門の利益はChevron、BP及びExxonMobilがそれぞれ35億ドル、34億ドルおよび33億ドルとほぼ一線に並び、Totalがこれら3社に次ぐ20億ドルの利益を計上、Shellは最も少ない16億ドルである。日系2社の利益は1億ドル未満であり両者の格差は甚だしい。

 

4-2下流部門の利益 (図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-5-14.pdf 参照)

日系2社の下流部門の利益は、出光が52億円(4,700万ドル)、JXTGは45億円(4,100万ドル)であった。一方メジャーで下流部門の利益が最も多いのはBPの14億ドルであり、続いてShell11億ドル、Chevron、Total各7億ドル、ExxonMobil5億ドルとなっている。最も少ないExxonMobilでも出光の10倍以上の利益を計上している。

 

なお各社の上流部門と下流部門の利益を比較すると、メジャーズ5社は上流部門が下流部門の2~4倍の高い利益を出している。一方、日系2社は両部門の利益格差が少ない。これには種々の要因が考えられるが、一つの要因として現在日本国内ではガソリン価格は原油価格の変動に応じ各社が適正な利潤を確保できるいわゆる価格転嫁が認められている特有の価格制度にあるためと言えよう(逆に言えば下流部門の利益が常に低い水準に推移することを意味している)。

 

以上

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

        前田 高行         〒183-0027東京都府中市本町2-31-13-601

                               Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                               E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

中国、世界最大のガス輸入国に:BPエネルギー統計2019年版解説シリーズ天然ガス篇 (13)

2019-08-22 | BP統計

BPが毎年恒例の「BP Statistical Review of World Energy 2019」を発表した。以下は同レポートの中から天然ガスに関する埋蔵量、生産量、消費量、貿易量及び価格のデータを抜粋して解説したものである。

 *BPホームページ:

http://www.bp.com/en/global/corporate/energy-economics/statistical-review-of-world-energy.html

 

(天然ガスの輸出を始めた米国!)

(5-2)主要5カ国の天然ガス自給率

(図http://bpdatabase.maeda1.jp/2-3-G05.pdf 参照)

 米国、中国、英国、インド及びUAEの5カ国について各国の自給率[(生産量-消費量)/消費量]を見ると2009年に自給率が最も高い中国は95%でほぼ自給体制を保ち、中国に続く米国は1割を輸入する自給率90%の状態であった。UAEの天然ガス自給率は83%であり、2割近くを輸入している。インド及び英国はそれぞれ自給率が74%及び67%であり、3割前後を輸入に頼っていた。

 

 UAEは有力な産油国であるが国内に単体の(非随伴型)ガス田が無く、石油生産に伴う随伴ガスに頼ってきた。しかし原油生産が停滞する一方、発電・造水用燃料ガスの需要が増加し、2008年にはガスの自給率が100%を切り、現在ではドルフィン・パイプラインにより隣国のカタールからガスを輸入している。

 

英国もかつては北海油田のガスで完全自給体制を維持していたが、2009年には既に自給率は67%であり、その後も年々低下し2013年には国内消費の半分程度しか賄えない自給率48%になり、2018年の自給率は51%である。

 

中国を見ると同国の2009年の自給率は95%であったが、その後年々自給率が下がり2018年には57%で、消費量の4割強を輸入に頼っているのが現状である。インドも2011年までは自給率70%台であったが、2012年には自給率が6割台に、さらに2016年以降は5割台に低下、2018年の自給率はついに50%を切り47%に下がっている。

 

 これら英国、中国、インドに比べ米国の自給率の改善には目覚ましいものがある。米国の2009年の自給率は既に90%を超えており5カ国の中では中国に次いで高かったが、2011年には中国を追い抜き2015年には100%を超えて完全自給体制を確立、2017年101%、2018年102%とここ2年間は安定して100%を超え、今や天然ガスの輸出国に変化しつつある。政府は天然ガス(LNG)の輸出を承認、メキシコ湾沿岸で複数のLNG輸出基地が建設され日本向けを含めた輸出がすでに始まっている。

 

(天然ガス篇消費量完)

 

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

        前田 高行         〒183-0027東京都府中市本町2-31-13-601

                               Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                               E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

見果てぬ平和 - 中東の戦後70年(6)

2019-08-22 | その他

ホームページ:OCIN INITIATIVE 

 

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

荒葉 一也

E-mail: areha_kazuya@jcom.home.ne.jp

 

プロローグ

 

6.第一次大戦中の英国の3枚舌外交(その3)

(3)バルフォア宣言

英国の3枚舌外交の中で最も有名なものが「バルフォア宣言」であろう。バルフォア宣言は三つの約束の中では最も遅く、1917年11月に英国外務大臣アーサー・バルフォアがユダヤ系貴族院議員ライオネル・ウォルター・ロスチャイルド宛に送った書簡であり、世界のユダヤ人に対してパレスチナの土地にホームランドを建設することを認めたものである。

 

西暦135年にローマ帝国ハドリアヌス帝が度重なるユダヤ人の反乱を鎮圧、かれらがエルサレムに立ち入ることを禁止してからユダヤ人たちの「ディアスポラ(離散)」の長い歴史が始まった。彼らはヨーロッパ各地で白人たちの蔑視と迫害に耐えながらいつの日か祖国パレスチナに帰ることを夢見ていた。それは19世紀に入って政治的なシオニズム運動(約束された故郷シオンの土地に帰ろう、という運動)になった。

 

19世紀から20世紀にかけて発展した金融資本主義の中で世界の金融を握ったのがユダヤ人である。それはユダヤ人の資金力が戦争の勝敗を左右する時代でもあった。日本が日露戦争に勝利したのは日本の戦時債を米国ウォール街のユダヤ人銀行家が引き受けてくれたおかげであることは誰もが知っている戦時秘話であるが、第一次大戦でもユダヤ資本が勝利の鍵を握っていた。そしてそのユダヤ資本家の代名詞とも言えるのがロスチャイルド財閥である。のどから手が出るほど金に困っていた英国は戦争資金の調達をロスチャイルドに持ち込み、その見返りとしてユダヤ人のシオニズム運動を後押ししたのである。

 

バルフォア外相がロスチャイルド卿に送った書簡には次のような文言が記されていた[1]

「英国政府は、ユダヤ人がパレスチナの地に国民的郷土を樹立することにつき好意をもって見ることとし、その目的の達成のために最大限の努力を払うものとする。ただし、これは、パレスチナに在住する非ユダヤ人の市民権、宗教的権利、及び他の諸国に住むユダヤ人が享受している諸権利と政治的地位を、害するものではないことが明白に了解されるものとする。

 貴殿によって、この宣言をシオニスト連盟にお伝えいただければ、有り難く思います。」

 

ここにはユダヤ人がパレスチナにホームランドを建設することを支援する英国政府の意図が明確に示されている。但しユダヤ人がパレスチナに住んでいたのは紀元1世紀までのことであり、それ以来2千年近くの間パレスチナに住み続けたのはアラブ人であった。そのためさすがの英国政府も「パレスチナに在住する非ユダヤ人の市民権、宗教的権利(中略)と政治的地位を、害するものではない」と言う但し書きを付けたのである。しかしその後この但し書きが守られることは無かったどころか、イスラエルは4度の戦争を通じてパレスチナにおける領土支配を進め、今も入植地を拡大し続けているのである。パレスチナを含むアラブ圏の全ての人々はそれをただ手を拱いて見ているだけである。

 

 

 以上の三つの約束をごく下世話風に言うとすれば、「戦争に必要な金を貸してくれればお前たちが望んでいる『約束の土地』パレスチナにユダヤの国を造らせてあげよう」と言うのがバルフォア宣言であり、一方「お前たちアラブ人がオスマン・トルコの後方を攪乱してくれれば、武器弾薬と必要な金をやろう。そして戦争が終わったらアラブ人によるカリフ制イスラム国家を造ることを認めよう」というのがフセイン・マクマホン書簡である。そして残る一つは、「戦争が終わればレバント地方を英仏2カ国で山分けしよう」と英国とフランスが地図上に線を引いたのがサイクス・ピコ協定であったと言えよう。この三つの約束が将来の紛争の種になるであろうことは誰の目にも明らかであったが、英国は当座の戦争に勝つことこそが目的であり、その後のことはその時になって考えれば良いというその場しのぎのご都合主義外交なのであった。

 

 英国及びフランスにとって3つの約束事の優先順位は、サイクス・ピコ協定が最優先であり、バルフォア宣言がこれに次ぎ、フセイン・マクマホン協定は最も優先順位が低かったことは第一次大戦後の歴史を見れば明らかである。そこでは中東地域の主役であるはずのアラブ・イスラームの人々の意向は全く無視され、アラブ・イスラームの人々は英国とフランスの西欧列強に食い物にされた。それが第二次大戦後、今に続く中東の混乱の遠因なのである。

 

(続く)

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

石油と中東のニュース(8月21日)

2019-08-21 | 今日のニュース

(参考)原油価格チャート:https://www.dailyfx.com/crude-oil

(石油関連ニュース)

・バハレーン、米のペルシャ湾船舶護衛有志連合に参加表明

(中東関連ニュース)

・シリア反政府軍、Idlib地区から撤退

・サウジ、外国人労働者雇用グリーン・ゾーンの企業に簡易ビザ発給

・サウジ、女性の旅行制限撤廃

・スーダン、軍民合同評議会結成、2022年に選挙実施

・スーダン バシール元大統領汚職裁判始まる。サウジから9千万ドル

・カタール、ExxonMobilシンガポールとコンデンセート供給5カ年契約締結




コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

JXTG/出光興産と五大国際石油企業の2019年4-6月期業績比較 (2)

2019-08-20 | 海外・国内石油企業の業績

(注)本レポートは「マイ・ライブラリー」で一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0476MajorJxtgIdemitsu2019AprJun.pdf

 

 

(JXTGの売上高はShellの4分の1、出光は7分の1!)

1.売上高 (図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-5-10.pdf 参照)

2019年4-6月期のJXTGの売上高は2兆5,148億円、出光は1兆4,763億円である。これをJXTGは1ドル=110円、出光は1ドル=109.9円で換算すると(換算レートは各社の決算説明資料から引用、以下同様)、JXTGは229億ドル、出光は134億ドルとなる。

これに対してメジャーズ)5社の同期の売上高は最も多いShellが918億ドル、ついでBP 727億ドル、ExxonMobil 691億ドル、Total 512億ドル、Chevron 389億ドルである。JXTGはメジャーズ最大のShellの4分の1であり、出光は7分の1にとどまっている。メジャーズの中で最も売上高が少ないChevronと比べてもJXTGは半分、出光は3分の1である。売り上げ規模で見れば日本企業と欧米企業の差は大きい。

 

(大きく見劣りする日系2社とメジャーズの利益格差!)

2.純利益 (図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-5-11.pdf 参照)

 メジャーズ5社と日系2社の純利益は売上高以上に大きな格差がある。JXTGの4-6月期の純利益は174億円(1.6億ドル)であり、出光の純利益は360億円(3.3億ドル)であった。一方メジャーの同期間の利益はChevronの43億ドルを筆頭に、以下ExxonMobil 31億ドル、Shell 30億ドル、Total 28億ドルで最も少ないのはBPの18億ドルである。メジャーズの中で最も利益の高いChevronに比べると出光はChevronの8%、JXTGは4%に過ぎず、メジャーズで最も利益の少ないBPと比べても出光は5分の1、JXTGは10分の1にとどまっている。

 

(出光はメジャーズで最も低いBPに肩を並べる!)

3.売上高利益率 (図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-5-12.pdf 参照)

 売上高利益率を比べてみると、利益率が最も高いのはChevronの11.1%であり、これに次ぐのがTotal 5.4%、さらにExxonMobil 4.5%、Shell 3.3%と続き、BPは5社で最も低い2.5%にとどまっている。これに対し出光の売上高利益率は2.4%とBPに肩を並べる水準であるが、JXTGはわずか0.7%であり、大きく見劣りしている。

 

 (続く)

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

        前田 高行         〒183-0027東京都府中市本町2-31-13-601

                               Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                               E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする