石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

JXTG/出光興産と五大国際石油企業の2019年4-6月期業績比較 (3)

2019-08-22 | 海外・国内石油企業の業績

(注)本レポートは「マイ・ライブラリー」で一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0476MajorJxtgIdemitsu2019AprJun.pdf

 

(生い立ちの違いで生産量に巨大な格差!)

4.上流・下流部門の業績比較

 JXTG及び出光は元来石油精製事業を専業とし市場も日本国内にとどまっていた。その後、吸収合併を重ね或はエネルギー事業の多角化を進めた結果、例えばJXTGは日本鉱業の吸収合併により非鉄金属事業が同社の事業の一翼を占めている。また出光は事業多角として豪州石炭事業或は高機能材などに手を広げている。

 

 これに比べメジャーズは創業当初から石油・天然ガスの開発生産に取り組み、また世界を相手に事業展開を行うエネルギー専業企業としての長い歴史を有している。JXTG、出光両社も石油天然ガスの開発に取り組んでいるが、メジャーズなど世界のエネルギー企業に比べて大きく出遅れ苦戦を強いられている。

 

メジャーズと日系2社の原油天然ガス生産量、上流部門利益及び下流部門の利益は以下に見るとおり巨大な格差がある。

 

4-1.原油・天然ガスの生産量(図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-5-15.pdf 参照)

 メジャーズ5社の4-6月期の石油天然ガスの合計生産量を石油換算(B/D)で見ると、最も多いExxonMobilは391万B/Dであり、最も少ないBPも263万B/Dを生産している。これに対してJXTGの生産量は9.9万B/D(石油3.5万B/D、ガス6.4万B/D)であり、出光は2.7万B/D(全量石油)である。

 

 

4-2上流部門の利益 (図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-5-13.pdf 参照)

 ここではJXTGについては決算書が示すセグメント別業績の内、エネルギー事業(いわゆる石油下流部門)と石油・天然ガス開発事業(いわゆる上流部門)の営業利益を取り上げ、また出光もセグメント別営業利益の燃料油部門と資源部門を取り上げてメジャー5社と比較する。

 

日系2社の上流部門の利益はJXTGが69億円(6,300万ドル)、出光は67億円(6,100万ドル)であった。これに対してメジャー5社の上流部門の利益はChevron、BP及びExxonMobilがそれぞれ35億ドル、34億ドルおよび33億ドルとほぼ一線に並び、Totalがこれら3社に次ぐ20億ドルの利益を計上、Shellは最も少ない16億ドルである。日系2社の利益は1億ドル未満であり両者の格差は甚だしい。

 

4-2下流部門の利益 (図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-5-14.pdf 参照)

日系2社の下流部門の利益は、出光が52億円(4,700万ドル)、JXTGは45億円(4,100万ドル)であった。一方メジャーで下流部門の利益が最も多いのはBPの14億ドルであり、続いてShell11億ドル、Chevron、Total各7億ドル、ExxonMobil5億ドルとなっている。最も少ないExxonMobilでも出光の10倍以上の利益を計上している。

 

なお各社の上流部門と下流部門の利益を比較すると、メジャーズ5社は上流部門が下流部門の2~4倍の高い利益を出している。一方、日系2社は両部門の利益格差が少ない。これには種々の要因が考えられるが、一つの要因として現在日本国内ではガソリン価格は原油価格の変動に応じ各社が適正な利潤を確保できるいわゆる価格転嫁が認められている特有の価格制度にあるためと言えよう(逆に言えば下流部門の利益が常に低い水準に推移することを意味している)。

 

以上

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

        前田 高行         〒183-0027東京都府中市本町2-31-13-601

                               Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                               E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

 

 

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中国、世界最大のガス輸入国に:BPエネルギー統計2019年版解説シリーズ天然ガス篇 (13)

2019-08-22 | BP統計

BPが毎年恒例の「BP Statistical Review of World Energy 2019」を発表した。以下は同レポートの中から天然ガスに関する埋蔵量、生産量、消費量、貿易量及び価格のデータを抜粋して解説したものである。

 *BPホームページ:

http://www.bp.com/en/global/corporate/energy-economics/statistical-review-of-world-energy.html

 

(天然ガスの輸出を始めた米国!)

(5-2)主要5カ国の天然ガス自給率

(図http://bpdatabase.maeda1.jp/2-3-G05.pdf 参照)

 米国、中国、英国、インド及びUAEの5カ国について各国の自給率[(生産量-消費量)/消費量]を見ると2009年に自給率が最も高い中国は95%でほぼ自給体制を保ち、中国に続く米国は1割を輸入する自給率90%の状態であった。UAEの天然ガス自給率は83%であり、2割近くを輸入している。インド及び英国はそれぞれ自給率が74%及び67%であり、3割前後を輸入に頼っていた。

 

 UAEは有力な産油国であるが国内に単体の(非随伴型)ガス田が無く、石油生産に伴う随伴ガスに頼ってきた。しかし原油生産が停滞する一方、発電・造水用燃料ガスの需要が増加し、2008年にはガスの自給率が100%を切り、現在ではドルフィン・パイプラインにより隣国のカタールからガスを輸入している。

 

英国もかつては北海油田のガスで完全自給体制を維持していたが、2009年には既に自給率は67%であり、その後も年々低下し2013年には国内消費の半分程度しか賄えない自給率48%になり、2018年の自給率は51%である。

 

中国を見ると同国の2009年の自給率は95%であったが、その後年々自給率が下がり2018年には57%で、消費量の4割強を輸入に頼っているのが現状である。インドも2011年までは自給率70%台であったが、2012年には自給率が6割台に、さらに2016年以降は5割台に低下、2018年の自給率はついに50%を切り47%に下がっている。

 

 これら英国、中国、インドに比べ米国の自給率の改善には目覚ましいものがある。米国の2009年の自給率は既に90%を超えており5カ国の中では中国に次いで高かったが、2011年には中国を追い抜き2015年には100%を超えて完全自給体制を確立、2017年101%、2018年102%とここ2年間は安定して100%を超え、今や天然ガスの輸出国に変化しつつある。政府は天然ガス(LNG)の輸出を承認、メキシコ湾沿岸で複数のLNG輸出基地が建設され日本向けを含めた輸出がすでに始まっている。

 

(天然ガス篇消費量完)

 

 

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見果てぬ平和 - 中東の戦後70年(6)

2019-08-22 | その他

ホームページ:OCIN INITIATIVE 

 

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

荒葉 一也

E-mail: areha_kazuya@jcom.home.ne.jp

 

プロローグ

 

6.第一次大戦中の英国の3枚舌外交(その3)

(3)バルフォア宣言

英国の3枚舌外交の中で最も有名なものが「バルフォア宣言」であろう。バルフォア宣言は三つの約束の中では最も遅く、1917年11月に英国外務大臣アーサー・バルフォアがユダヤ系貴族院議員ライオネル・ウォルター・ロスチャイルド宛に送った書簡であり、世界のユダヤ人に対してパレスチナの土地にホームランドを建設することを認めたものである。

 

西暦135年にローマ帝国ハドリアヌス帝が度重なるユダヤ人の反乱を鎮圧、かれらがエルサレムに立ち入ることを禁止してからユダヤ人たちの「ディアスポラ(離散)」の長い歴史が始まった。彼らはヨーロッパ各地で白人たちの蔑視と迫害に耐えながらいつの日か祖国パレスチナに帰ることを夢見ていた。それは19世紀に入って政治的なシオニズム運動(約束された故郷シオンの土地に帰ろう、という運動)になった。

 

19世紀から20世紀にかけて発展した金融資本主義の中で世界の金融を握ったのがユダヤ人である。それはユダヤ人の資金力が戦争の勝敗を左右する時代でもあった。日本が日露戦争に勝利したのは日本の戦時債を米国ウォール街のユダヤ人銀行家が引き受けてくれたおかげであることは誰もが知っている戦時秘話であるが、第一次大戦でもユダヤ資本が勝利の鍵を握っていた。そしてそのユダヤ資本家の代名詞とも言えるのがロスチャイルド財閥である。のどから手が出るほど金に困っていた英国は戦争資金の調達をロスチャイルドに持ち込み、その見返りとしてユダヤ人のシオニズム運動を後押ししたのである。

 

バルフォア外相がロスチャイルド卿に送った書簡には次のような文言が記されていた[1]

「英国政府は、ユダヤ人がパレスチナの地に国民的郷土を樹立することにつき好意をもって見ることとし、その目的の達成のために最大限の努力を払うものとする。ただし、これは、パレスチナに在住する非ユダヤ人の市民権、宗教的権利、及び他の諸国に住むユダヤ人が享受している諸権利と政治的地位を、害するものではないことが明白に了解されるものとする。

 貴殿によって、この宣言をシオニスト連盟にお伝えいただければ、有り難く思います。」

 

ここにはユダヤ人がパレスチナにホームランドを建設することを支援する英国政府の意図が明確に示されている。但しユダヤ人がパレスチナに住んでいたのは紀元1世紀までのことであり、それ以来2千年近くの間パレスチナに住み続けたのはアラブ人であった。そのためさすがの英国政府も「パレスチナに在住する非ユダヤ人の市民権、宗教的権利(中略)と政治的地位を、害するものではない」と言う但し書きを付けたのである。しかしその後この但し書きが守られることは無かったどころか、イスラエルは4度の戦争を通じてパレスチナにおける領土支配を進め、今も入植地を拡大し続けているのである。パレスチナを含むアラブ圏の全ての人々はそれをただ手を拱いて見ているだけである。

 

 

 以上の三つの約束をごく下世話風に言うとすれば、「戦争に必要な金を貸してくれればお前たちが望んでいる『約束の土地』パレスチナにユダヤの国を造らせてあげよう」と言うのがバルフォア宣言であり、一方「お前たちアラブ人がオスマン・トルコの後方を攪乱してくれれば、武器弾薬と必要な金をやろう。そして戦争が終わったらアラブ人によるカリフ制イスラム国家を造ることを認めよう」というのがフセイン・マクマホン書簡である。そして残る一つは、「戦争が終わればレバント地方を英仏2カ国で山分けしよう」と英国とフランスが地図上に線を引いたのがサイクス・ピコ協定であったと言えよう。この三つの約束が将来の紛争の種になるであろうことは誰の目にも明らかであったが、英国は当座の戦争に勝つことこそが目的であり、その後のことはその時になって考えれば良いというその場しのぎのご都合主義外交なのであった。

 

 英国及びフランスにとって3つの約束事の優先順位は、サイクス・ピコ協定が最優先であり、バルフォア宣言がこれに次ぎ、フセイン・マクマホン協定は最も優先順位が低かったことは第一次大戦後の歴史を見れば明らかである。そこでは中東地域の主役であるはずのアラブ・イスラームの人々の意向は全く無視され、アラブ・イスラームの人々は英国とフランスの西欧列強に食い物にされた。それが第二次大戦後、今に続く中東の混乱の遠因なのである。

 

(続く)

 

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