ITSを疑う

ITS(高度道路交通システム)やカーマルチメディア、スマホ、中国関連を中心に書き綴っています。

スマートウェイ2007 その4

2007年10月19日 | ITS
スマートウェイ2007のシンポジウム、午前の部の最後はパネルディスカッションだった。参加者はITSジャパン天野氏、モータージャーナリスト岩貞氏、首都大学大口教授、レーシングチーム監督中嶋悟氏。司会はJAFmate編集長の鳥塚氏。

まず、各人からはじめの言葉があったのだが、ここでいきなり推進側のITSジャパン天野氏から衝撃発言が飛び出した。衝撃発言といっても、静かな語り口だったのでそれとはわからない方も多かったと思う。

ご発言の趣旨は
ETCが普及した、それ(DSRC)を他へ応用したいということで、その為の検討をすすめて技術の標準化は完了し、2年前に実用フェーズに入った。
ITS世界会議でもデモを行った。
今回は首都高速でインフラ協調大掛かりな実験をし、60%強の被験者からポジティブな評価をもらった。
(このアンケート結果もかなり恣意的なのだが)
と、ここまでは成果について語られた。

ここからがポイント。
天野氏はここで話を切ることも出来たはずだが、敢えてこの先をお話しされたのだと思う。

この首都高スマートウェイサービス実験のアンケートでは、付加価値とそれに見合う対価を聞いているのだが、ほとんどの被験者が「1000円以下」と答えている。
これは、現実的にはこのサービスを付与しても機器の価格を上げることが出来ないことを意味している、と天野氏は指摘する。

その通りだろう。

したがって、現在既に普及している機器でそれが実現するような仕組みを考えなくてはいけないのかもしれない、と氏は言う。

そして、話はここで終わってしまう。
これ以上の結論が現時点では用意できないのかもしれない。
あるいは、各方面への配慮からこれ以上の意見はあえて抑えたのかもしれない。

つまり、こういうことだ。

今回の構想、国交省が相当に力を入れている。
e-Japanから繋がる国のIT戦略にITSは名を連ねている。そのITS政策の中で、何とか物になりそうなのがこの通信を活用した安全技術なのだ。
今回スマートウェイ2007の目玉、というか唯一の成果物として紹介されているDSRC・ITS車載器によるインフラ協調システムは、ITS-Safety2010という名前で来年の大規模実験を経て、2009年春にはお台場をモデル地区として大々的に展開する計画になっているらしい。

そのためにはITS車載器と呼ばれる多機能ETCの商品化、普及が不可欠になる。

今回のスマートウェイ2007でもETCメーカーは全社、実験に協力するために試作・製造したITS車載器の展示を行っていた。

しかし、その付加価値を消費者は金銭的に評価しない、というのだ。

メーカーは売れないものを作るわけには行かない。
というか、付加価値分を評価されないとなると、コストアップ分を吐き出して販売をしなければならなくなる可能性もある。
しかも、これが国の要請ということになると、断れない。

この政策を展開することで路側機ビジネスの展開も望める大手数社は別にして、その他の会社ははっきり言って冷めていると思う。

自動車メーカーも同じだ。国の政策として標準装備のナビゲーションにITS車載器を搭載せよ、と指導された場合、ユーザーからお金を取れないコンポの装備となり、ビジネスを圧迫する。

そもそも、ユーザーからお金を取れないという時点でサステイナブルなビジネスモデルが破綻しているのだ。

天野氏はトヨタの人間である。
そうした立場で、現状の根幹にかかわる大問題を控えめに指摘されたのだと思う。

次回はこの「根幹にかかわる大問題」をもう少し掘り下げてみたい。