ITSを疑う

ITS(高度道路交通システム)やカーマルチメディア、スマホ、中国関連を中心に書き綴っています。

ITS車載器の問題点 続き

2007年10月20日 | ITS
ITS車載器によるインフラ協調安全運転支援システムについては、実際に試乗で体験をさせてもらった。

前方障害警告システムは、ある程度の有用性は認める。
カーブ先の渋滞情報が事前に知らされることは有用に決まっている。但し、路側表示でいい。

合流支援は使い物になるとは思えない。私の車のナビには合流の音声警告機能があるが、うるさいので切ってある。
前方合流なんて必ずそれに対応する運転をしているものだ。合流車があります、なんていわれなくてもいい。

前方静止画表示は全然だめ。静止画を見て判断する、なんてことを運転者にさせてはいけない。

大黒パーキングを想定した駐車場でのインターネット接続デモは、ナビ画面にPAのレストランのメニューが表示されるというものであったが、そんなことする時間があるならさっさと店内に入ったほうがいい。

以上のように、私が実際体験した感想もアンケート結果の
「現在のナビにただで付いてくるなら、まあいいんじゃないの?」
というレベルだ。

私の一番の疑問は「なぜ路側表示ではなく、車載器表示にこだわるのか」である。
今回のスマートウェイ2007はQ&Aというコーナーがないので聞けなかったが、これに対する正式見解は、
「運転者の認知度は、路側表示の50%に対して車載器表示では90%に跳ね上がる」という調査結果らしい。
実験の条件などがまったく明かされていないので、詳細は不明。

私がこの結果から思うのは、単に路側表示は長年「狼少年」を演じてきたのだ、ということだ。
センサー連動の表示はスピードや車間で存在するが、「この先渋滞注意」とか、「カーブスピード注意」という表示は通常は出っ放しだろう。
運転者にとっても、センサー連動のリアルタイム路側表示という概念がない。
路側表示板というデバイスが悪いのではなく、ドライバー側の既成概念が認知を低くしている。

一方の車載器表示は目新しい分、認知度は高くて当然だ。
しかし、これも慣れたらどうなるか。

さらに、参宮橋の実験結果からは、路車間通信ではなく道路の改善で事故が減ることが証明されているとしか私には思えない。
(事前警報と関係ないはずの「速度超過に起因する事故」も大幅に減少しているのだ)

真剣な検討なしに、「路側表示はだめでこれからは車載器表示だ」と決め付けていないか?

運転者の視線移動や混乱という観点からは路側表示のほうが優れているように感じるが、検討されているのか?

そして何より、センサー連動の安全表示は、二輪車を含めすべてのドライバーが公平に見ることができる「路側表示」を優先して整備するのが、どう考えても常識だと思うが。

なにかがおかしくないか?

ITS車載器の問題点

2007年10月20日 | ITS
今回のスマートウェイ2007は、DSRC路側機とITS車載器によるインフラ協調の安全運転支援システムがすべてだ、といってもおかしくないような内容だった。

首都高速に路側機を設置し、ETC関連機器メーカーとカーメーカーの協賛を得てモニター車に試作のITS車載器を搭載し、今年5月から60台のモニター走行が続けられた。

安全運転支援システムとは、カーブ先の渋滞を知らせるもの、合流地点で合流車が来ることを知らせるもの、前方の交通状況を静止画で知らせるもの、などだ。
この実験の詳細のPDFはここに。

このモニター走行、当然モニターにアンケートをとっている。アンケートの内容は上のPDFファイルに記載されている。
その結果が今回発表された。

いわく、60%の人がこのシステムを利用したいと回答し、肯定的な意見が過半をしめた、としている。

ちょっと待って欲しい。

今回のシステムは車の安全性を向上させるものだ。
安全の向上という課題にネガティブ意見を出す人はとても少ないのが普通だ。
しかも、アンケートにあるとおり「トレードオフ条件」(機器の利用料、価格、装着することでのデメリット)を示していない。

こうした条件のアンケートでは通常100%肯定が「合格点」であり、60%はとても低い数字と考えなければいけない。
しかも、内容を詳しく見ると「利用したい」は15%、「どちらかといえば利用したい」が45%。

これはネガティブな結果が出た、と判断するべきだ。

さらに、昨日のエントリーで書いたとおりこれを裏付けるようなアンケート結果が出ているのだが、こちらについてはどうも積極的に発表されていないように感じる。
それは、「このシステムの対価」である。
私も資料がないのだが、どうも多くの被験者が「1000円以下」と回答しているらしい。

つまり
「現在のナビにただで付いてくるなら、まあいいんじゃないの?」
程度の評価しか取れていないのだ。

ところがこのシステム、ETCとナビを買い換えなければ完全には使えない。
1000円以下どころか数十万円かかるのだ。

さらに事態を絶望的にしているは、ETCの普及率。ETC車載器はまだ右肩上がりで伸びているが、飽和は近い。
ETCのコアバリューはノンストップ料金支払いなので(注)、DSRCサービスが始まったからといって新しい機械に買い換えるユーザーはきわめて限られるだろう。

以上のようにITS車載器構想はきわめてハードルが高いと見るべきなのだが、どうも都合の悪いところは皆さん恣意的に無視をしているように感じる。

この項、もう少し続けよう。

(注)こう書くと、携帯電話のコアバリューは最初は通話だった、というような反論をする人もいるだろうな。でも、DSRCサービスに携帯メールのような潜在的な大市場はないと思う。