ひと目で好きになる人がいる。
性別や年齢に関係なく。
そんな人の中の一人、アードリーの家に遊びに行った。
彼女はインテリアデザイナー。
キャリアはもう随分と長い。
出会ったのは夫が先で、きっと好きになるよと言われていて、二階の浴室の改装をするに当たってデザインをお願いした。
彼女の顧客のほとんどは裕福な人たちで、だから彼女がやりたいように、やれるだけやってしまえる仕事が多い。
うちの場合はほんの2畳半ぽっちのちっちゃな室内に、日本風の深い浴槽を入れたいというだけが希望で、けれどもできるだけさっぱりした感じの浴室にしたかったので相談した。
彼女が提案してくれた壁と床のタイルにまず惚れて、その価格がまるで高価じゃなかったことにまた惚れた。
結局工事の段階で、頼んだ業者がきちんと仕事ができなかったので、ものすごいストレスに見舞われてしまったけれど、その空間は本当に気持ちが良くて、数年が経った今でもそこに入るたびに感謝の気持ちがふつふつと湧いてくる。
彼女自身はほんの2年前までの30年間、ものすごく狭いアパートメントで暮らしていた。
大きな犬が好きで、チャウチャウを3匹、でっかいテリアを1匹を飼っている。
新しいパートナーとの生活も始まり、さすがに窮屈になったので家を買うことにしたのだけど、
もうニュージャージーとはおさらばして、どこか全く違う風土の場所に引っ越そうと、いろんな州の町を探したらしい。
すごく美味しいコーヒーが飲めて、ニューヨークタイムズが簡単に手に入る場所ならどこでもよかった。
全く違う風土は2週間もすると嫌気が差してきて、おまけにすごく美味しいコーヒーとニューヨークタイムズを簡単に手に入れるには、やはりトライステートに留まるっきゃないことに気がついた。
そんなところに、家を早急に売りたい人がいるという情報を得た。
そこはわたしのうちから車で20分ぐらいの、もちろんだからニュージャージー州の家だった。
おさらばしたかった所にまた戻っていくのには抵抗があったのだけど、まあとりあえず見にいくだけでもと思い直して訪れた。
そこは確かに地図上ではニュージャージー州なんだけど、ペンシルバニア州の広々とした雰囲気があってとても異質な空間だった。
そして彼女はその家に一目惚れした。
COVID-19の被害を大きく受けた新しい世界では、会ってもハグも握手もできない。
もちろん家族以外の家の中には入って行かない。
入ったとしても、靴を脱ぎ、手を洗い、マスクをつけて、ほんの短い時間だけにする。
アードリーも彼女のパートナーのマックも、わたしより少しだけ年上なので、ソーシャルディスタンスを守って外で楽しく過ごそうと思っていた。
だけど、到着した途端、家の中を案内すると言われて、いいの?いいの?とまごまごしながら彼女に付いていき、一部屋一部屋じっくり見せてもらった。
壁にかけられた絵や彫金がどれもこれもすごく良くて、まるでとてもカジュアルな美術館に迷い込んだみたいな気持ちになった。
彼女の好きな色、風合い、空間の取り方、小物の数々に出会うたびに、胸の中に浮かんだ小舟が心地よく揺れた。
極め付けは大きなオルゴールだった。
オークションで手に入れたというそれは、もうオルゴールというより、柔らかな夢の音のオーケストラだった。
すっかり舞い上がってしまって、写真もビデオも撮るのを忘れて聞き惚れていた。
今度はきっと紹介できるよう、気を落ち着けて聞こうと思う。
グルテンフリーに加えてデイリー(乳製品)フリーというなんとも面倒くさいわたしたちのために、美味しい軽食を用意してくれた二人と、美しくて若い鯉が泳ぐ池のすぐ横のパティオで楽しく過ごした。
すっかり長居してしまって、気がついた時には薄暗くなっていて、だから敷地内にあるサマーハウスの横の小さな林で群生する蛍の光の乱舞も見られた。
彼女が遠くに行ってしまわなかったことに感謝する。
いつでも来たい時に来てね!と言ってくれる彼女にまた惚れた。
ちょっと日が空いたので、かなり荒れてるだろうなと思いつつ、カゴとハサミを持って菜園を見に行った。
今年は本当にカブとビーツが頑張っている。
オクラはちょっと油断したら巨大になってしまってて、きっとこれはどんなに料理をしても食べられないだろうと反省…。
葉っぱものもぐんぐん大きくなっていた。
夏は人も野菜もぐんぐん大きくなる。