主に、茶陶の世界で使われている言葉に、「約束」又は「約束事」と言うものがあります。
「約束」の意味は、「その種類の作品なら、持っているべき条件(特徴)」と言えます。
それ故、現在では茶陶のみでなく、広く作品群や茶道全般(作法など)についても使われる様に
なりました。
1) 作品の「約束」は、鑑定の有力な拠り所とされ、「目利き」と呼ばれた人は、この知識が
必要になっています。
① 「約束」は胎土の種類や制作方法、削りのタイミング、焼成の仕方などの諸条件が揃った
場合に、偶然出現した現象です。それ故、当初から意図的に約束を設けた訳ではありません。
「約束」はある程度類似の作品が出来た後に作られた物で、それ以後はその「約束」に従う
事が多くなりました。
② 本物が「約束」を守っているとは限りません。ある意味、偶然そうなっただけの物かも知れ
ません。それ故、「約束」を守っていないからと言って、偽者と決め付ける事は出来ません。
③ 逆に、偽者(贋作)は必ず「約束」を守っているとも言えます。
最初から、「約束」を意識して作るからです。
2) 「約束」の例。(近年言われている「約束」です。)
① 井戸茶碗: 釉は枇杷色(びわいろ)、魚子(ななこ)貫入、高台内外は梅華皮(かいらぎ)
胴部の三段轆轤目。
) 梅華皮は、釉が平面的に掛からず、粒々状になった状態です。素地を削る際、滑らかに
削らず、素地を荒らした状態に削ります。
) 魚子貫入とは、細かい「ヒビ」がたくさん集まっている状態の貫入です。
茶の湯では、貫入による景色を「茶碗が育った」と愛でます。貫入の種類や大きさ、貫入の
入り具合や模様が、見所になり大切にされています。
② 熊川(こもがい)茶碗: 端反り碗形(わんなり)、見込みに鏡があります。
③ 伊賀: ビードロ釉、焦げ、火色。
焼締陶の伊賀焼では、薪の松灰が作品に振り掛り、ビードロ(緑色)状の自然釉となります。
④ 信楽壷、蹲る(うずくまる): 畳み付きに下駄印(出下駄、入下駄)、霰(あられ)。
) 下駄印は、轆轤上に二本の凸又は、凹みの溝を取り付け、土を轆轤上に据えた時、移動
しない様にした物で、その痕が底面に残った物です。それ故、轆轤上にしっかり固定できれば
必ずしも、必要な物ではなく、下駄印の痕も残りません。
) 霰とは、「ハゼ石」と呼ばれる長珪石が、白い半融状態で表面に吹き出て来た物です。
⑤ 唐津: 高台内に縮緬皺(ちりめんしわ)、三日月高台(片薄)
) 縮緬皺は、砂化のある粒子がやや粗い土を使い、生乾きの状態で、「切れ味の悪い」
鉋(かんな)や松箆(へら)を使い、削り作業を行うと削り面が荒れ毛羽立ちます。
) 片薄は、高台の外側を削り終えたら、作品を轆轤の中心より、ややずらしてから、高台
内側を削る事で、成形する事が出来ます。
⑥ 古染付け: 虫食い。口縁や稜部の釉剥げの事です。
) 我が国では珍重される「虫食い」も、本場中国では、不良品として扱われます。
即ち、素地と釉の収縮率が一致しない為に起こる現象ですので、「粗悪品」と見られて
います。
⑦ 祥瑞(しょんずい): ゴマ土(高台畳付き部の胎土の黒点)。
⑧ 定窯白磁: 涙痕(流下する釉)。
⑨ 南宋官窯、哥(か)窯青磁: 紫口鉄足(口縁部が紫褐色で、高台露胎部分が黒褐色)
3) 騙しの方法。
① 本物には「約束」を満たした作品は少ない。
) 唐津の「約束」である縮緬皺や片薄の本物の作品は、巷で言う程多くは有りません。
むしろ無い方が多いです。しかし、贋作には必ず両方あります。
② 同じ現象は、別の焼き物にも出現しています。
)梅華皮のある作品は、堅手(かたて)茶碗、萩茶碗、瀬戸唐津茶碗にも見られる現象です。
)下駄印は、常滑焼や丹波焼の製品にもあります。
③ 作品に「約束」を入れる(付ける)手口。
) 古染付の写しや贋作には、「虫食い」が付けられています。
意図的に「虫食い」状態を作り出すには、釉が剥がれ易い様な異物を釉の下(素地の表面)に
入れて置く事で可能になります。即ち、施釉する前に表面の埃(ほこり)やゴミを取り除く
事は普通に行われています。これは、焼成で釉が弾かれるのを防ぐ行為です。
これを逆手にとり、あえて任意の場所に塵(ちり)や埃を付ける事により、「虫食い」を
作る事ができます。但し専門家が見れば、偽者の「虫食い」と判別できるとの事です。
) 祥瑞(しょんずい)のゴマ土にしても、砂粒状の異物を付けて、施釉後に焼成すれば、
ゴマ(胡麻)土を付ける事も可能です。
以下次回に続きます。
「約束」の意味は、「その種類の作品なら、持っているべき条件(特徴)」と言えます。
それ故、現在では茶陶のみでなく、広く作品群や茶道全般(作法など)についても使われる様に
なりました。
1) 作品の「約束」は、鑑定の有力な拠り所とされ、「目利き」と呼ばれた人は、この知識が
必要になっています。
① 「約束」は胎土の種類や制作方法、削りのタイミング、焼成の仕方などの諸条件が揃った
場合に、偶然出現した現象です。それ故、当初から意図的に約束を設けた訳ではありません。
「約束」はある程度類似の作品が出来た後に作られた物で、それ以後はその「約束」に従う
事が多くなりました。
② 本物が「約束」を守っているとは限りません。ある意味、偶然そうなっただけの物かも知れ
ません。それ故、「約束」を守っていないからと言って、偽者と決め付ける事は出来ません。
③ 逆に、偽者(贋作)は必ず「約束」を守っているとも言えます。
最初から、「約束」を意識して作るからです。
2) 「約束」の例。(近年言われている「約束」です。)
① 井戸茶碗: 釉は枇杷色(びわいろ)、魚子(ななこ)貫入、高台内外は梅華皮(かいらぎ)
胴部の三段轆轤目。
) 梅華皮は、釉が平面的に掛からず、粒々状になった状態です。素地を削る際、滑らかに
削らず、素地を荒らした状態に削ります。
) 魚子貫入とは、細かい「ヒビ」がたくさん集まっている状態の貫入です。
茶の湯では、貫入による景色を「茶碗が育った」と愛でます。貫入の種類や大きさ、貫入の
入り具合や模様が、見所になり大切にされています。
② 熊川(こもがい)茶碗: 端反り碗形(わんなり)、見込みに鏡があります。
③ 伊賀: ビードロ釉、焦げ、火色。
焼締陶の伊賀焼では、薪の松灰が作品に振り掛り、ビードロ(緑色)状の自然釉となります。
④ 信楽壷、蹲る(うずくまる): 畳み付きに下駄印(出下駄、入下駄)、霰(あられ)。
) 下駄印は、轆轤上に二本の凸又は、凹みの溝を取り付け、土を轆轤上に据えた時、移動
しない様にした物で、その痕が底面に残った物です。それ故、轆轤上にしっかり固定できれば
必ずしも、必要な物ではなく、下駄印の痕も残りません。
) 霰とは、「ハゼ石」と呼ばれる長珪石が、白い半融状態で表面に吹き出て来た物です。
⑤ 唐津: 高台内に縮緬皺(ちりめんしわ)、三日月高台(片薄)
) 縮緬皺は、砂化のある粒子がやや粗い土を使い、生乾きの状態で、「切れ味の悪い」
鉋(かんな)や松箆(へら)を使い、削り作業を行うと削り面が荒れ毛羽立ちます。
) 片薄は、高台の外側を削り終えたら、作品を轆轤の中心より、ややずらしてから、高台
内側を削る事で、成形する事が出来ます。
⑥ 古染付け: 虫食い。口縁や稜部の釉剥げの事です。
) 我が国では珍重される「虫食い」も、本場中国では、不良品として扱われます。
即ち、素地と釉の収縮率が一致しない為に起こる現象ですので、「粗悪品」と見られて
います。
⑦ 祥瑞(しょんずい): ゴマ土(高台畳付き部の胎土の黒点)。
⑧ 定窯白磁: 涙痕(流下する釉)。
⑨ 南宋官窯、哥(か)窯青磁: 紫口鉄足(口縁部が紫褐色で、高台露胎部分が黒褐色)
3) 騙しの方法。
① 本物には「約束」を満たした作品は少ない。
) 唐津の「約束」である縮緬皺や片薄の本物の作品は、巷で言う程多くは有りません。
むしろ無い方が多いです。しかし、贋作には必ず両方あります。
② 同じ現象は、別の焼き物にも出現しています。
)梅華皮のある作品は、堅手(かたて)茶碗、萩茶碗、瀬戸唐津茶碗にも見られる現象です。
)下駄印は、常滑焼や丹波焼の製品にもあります。
③ 作品に「約束」を入れる(付ける)手口。
) 古染付の写しや贋作には、「虫食い」が付けられています。
意図的に「虫食い」状態を作り出すには、釉が剥がれ易い様な異物を釉の下(素地の表面)に
入れて置く事で可能になります。即ち、施釉する前に表面の埃(ほこり)やゴミを取り除く
事は普通に行われています。これは、焼成で釉が弾かれるのを防ぐ行為です。
これを逆手にとり、あえて任意の場所に塵(ちり)や埃を付ける事により、「虫食い」を
作る事ができます。但し専門家が見れば、偽者の「虫食い」と判別できるとの事です。
) 祥瑞(しょんずい)のゴマ土にしても、砂粒状の異物を付けて、施釉後に焼成すれば、
ゴマ(胡麻)土を付ける事も可能です。
以下次回に続きます。