わ! かった陶芸 (明窓窯)

 作陶や技術的方法、疑問、質問など陶芸全般 
 特に電動轆轤技法、各種装飾方法、釉薬などについてお話します。

騙しのテクニック22 約束(事)

2014-07-08 16:43:13 | 騙しのテクニック
主に、茶陶の世界で使われている言葉に、「約束」又は「約束事」と言うものがあります。

「約束」の意味は、「その種類の作品なら、持っているべき条件(特徴)」と言えます。

それ故、現在では茶陶のみでなく、広く作品群や茶道全般(作法など)についても使われる様に

なりました。

1) 作品の「約束」は、鑑定の有力な拠り所とされ、「目利き」と呼ばれた人は、この知識が

   必要になっています。

 ① 「約束」は胎土の種類や制作方法、削りのタイミング、焼成の仕方などの諸条件が揃った

   場合に、偶然出現した現象です。それ故、当初から意図的に約束を設けた訳ではありません。

   「約束」はある程度類似の作品が出来た後に作られた物で、それ以後はその「約束」に従う

    事が多くなりました。

 ② 本物が「約束」を守っているとは限りません。ある意味、偶然そうなっただけの物かも知れ

   ません。それ故、「約束」を守っていないからと言って、偽者と決め付ける事は出来ません。

 ③ 逆に、偽者(贋作)は必ず「約束」を守っているとも言えます。

   最初から、「約束」を意識して作るからです。

2) 「約束」の例。(近年言われている「約束」です。)

 ① 井戸茶碗: 釉は枇杷色(びわいろ)、魚子(ななこ)貫入、高台内外は梅華皮(かいらぎ)

   胴部の三段轆轤目。

  ) 梅華皮は、釉が平面的に掛からず、粒々状になった状態です。素地を削る際、滑らかに

    削らず、素地を荒らした状態に削ります。

  ) 魚子貫入とは、細かい「ヒビ」がたくさん集まっている状態の貫入です。

    茶の湯では、貫入による景色を「茶碗が育った」と愛でます。貫入の種類や大きさ、貫入の

    入り具合や模様が、見所になり大切にされています。

 ② 熊川(こもがい)茶碗: 端反り碗形(わんなり)、見込みに鏡があります。

 ③ 伊賀: ビードロ釉、焦げ、火色。

   焼締陶の伊賀焼では、薪の松灰が作品に振り掛り、ビードロ(緑色)状の自然釉となります。

 ④ 信楽壷、蹲る(うずくまる): 畳み付きに下駄印(出下駄、入下駄)、霰(あられ)。

  ) 下駄印は、轆轤上に二本の凸又は、凹みの溝を取り付け、土を轆轤上に据えた時、移動

   しない様にした物で、その痕が底面に残った物です。それ故、轆轤上にしっかり固定できれば

   必ずしも、必要な物ではなく、下駄印の痕も残りません。

  ) 霰とは、「ハゼ石」と呼ばれる長珪石が、白い半融状態で表面に吹き出て来た物です。

 ⑤ 唐津: 高台内に縮緬皺(ちりめんしわ)、三日月高台(片薄)

  ) 縮緬皺は、砂化のある粒子がやや粗い土を使い、生乾きの状態で、「切れ味の悪い」

     鉋(かんな)や松箆(へら)を使い、削り作業を行うと削り面が荒れ毛羽立ちます。

  ) 片薄は、高台の外側を削り終えたら、作品を轆轤の中心より、ややずらしてから、高台

    内側を削る事で、成形する事が出来ます。

 ⑥ 古染付け: 虫食い。口縁や稜部の釉剥げの事です。

  ) 我が国では珍重される「虫食い」も、本場中国では、不良品として扱われます。

    即ち、素地と釉の収縮率が一致しない為に起こる現象ですので、「粗悪品」と見られて

    います。  

 ⑦ 祥瑞(しょんずい): ゴマ土(高台畳付き部の胎土の黒点)。

 ⑧ 定窯白磁: 涙痕(流下する釉)。

 ⑨ 南宋官窯、哥(か)窯青磁: 紫口鉄足(口縁部が紫褐色で、高台露胎部分が黒褐色)

3) 騙しの方法。

 ① 本物には「約束」を満たした作品は少ない。

  ) 唐津の「約束」である縮緬皺や片薄の本物の作品は、巷で言う程多くは有りません。

    むしろ無い方が多いです。しかし、贋作には必ず両方あります。

 ② 同じ現象は、別の焼き物にも出現しています。

  )梅華皮のある作品は、堅手(かたて)茶碗、萩茶碗、瀬戸唐津茶碗にも見られる現象です。 

  )下駄印は、常滑焼や丹波焼の製品にもあります。

 ③ 作品に「約束」を入れる(付ける)手口。

  ) 古染付の写しや贋作には、「虫食い」が付けられています。

   意図的に「虫食い」状態を作り出すには、釉が剥がれ易い様な異物を釉の下(素地の表面)に

   入れて置く事で可能になります。即ち、施釉する前に表面の埃(ほこり)やゴミを取り除く

   事は普通に行われています。これは、焼成で釉が弾かれるのを防ぐ行為です。

   これを逆手にとり、あえて任意の場所に塵(ちり)や埃を付ける事により、「虫食い」を

   作る事ができます。但し専門家が見れば、偽者の「虫食い」と判別できるとの事です。

  ) 祥瑞(しょんずい)のゴマ土にしても、砂粒状の異物を付けて、施釉後に焼成すれば、

    ゴマ(胡麻)土を付ける事も可能です。

 以下次回に続きます。  
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