③ 坪井明日香氏の陶芸
) 前衛作品への転向: 1966年 京都工芸美術家代表団の一員として、文化大革命中の中国を
訪問します。本場中国で各地の古い陶磁器を、50日間も見続けていたそうです。
それらの作品を見て、「あれもこれもやり尽くされた感じで、自分が追いかけてもしょうがない」と
思う様になります。その頃から徐々に前衛作品を作る様になります。
) 1970年 「現代の陶芸ーヨーロッパと日本」(京都国立近代美術館主催)に招待出品した
ポップアート的な 「ふろしき A・B」は、覆われたふくらみが、女体の乳房や臀部を想像させる
刺激的な作品として、注目を集めます。
) 1971年 「第一回日本陶芸展」(毎日新聞社主催)で「袖シリーズ」を発表します。
十二単(ひとえ)の袖口を連想させる、鮮やかな多色の襞(ひだ)が重なる作品は、女性の
陰部を空想させると、男性側からささやかれる程でした。
) 「歓楽の木の実」と「禁断の木の実」の作品
1973年 「現代工芸の鳥瞰(ちょうかん)展」(京都近代美術館主催)に出品された作品です。
a) 「歓楽の木の実」は、赤地に無数の金の水玉が蛇の網目文様の様に走り、小さな乳首を持つ
乳房が五段のアーチ状に積み重ねられ、一個の赤いリンゴが挿入されている作品です。
乳は丸みを帯び、一定方向ではなく、ランダムな方向を向いています。
一部は重ねた重みで潰れた様な形になっています。(高 64 X 横 56cm)
b) 「禁断の木の実」は、黒く銀色に輝く乳房を4~5段重ねこれを1ユニットとして、3~4ユニットを
縦に束ねた作品で、青(緑)リンゴ2個が中段と最上段に挿入されています。
乳首はリンゴと同じ緑色に成っています。(高 64 X 横 45cm)
c) これらの作品は、「充熟した生命感」と、おおらかな「生の賛美」を表現したものと言われて
います。本来女性は太陽であり、大地であり、子供を産出し、豊饒(ほうじょう)で全体を繋げる
存在でもあります。この原点を歌い上げた作品とも言えます。
) 「地図シリーズ」の作品:
京都地図:(縦 51 X 横 55cm)東京国立近代美術館(1976年)、大阪地図(1977年)、
神戸地図:(縦 67 X 横67cm)(1982年)など。
a) これらの作品は、薄い陶板に、不定形な複数の襞(しわ)を付けたり、端面を丸め込んだり
して変形させた作品で、燻し銀の地肌の一部に、布目を押し当て連続文様にすると共に、
その反対側に鱗文(うろこもん)を色絵で絵付けされています。
b) この作品は、源氏物語絵巻の様に、王朝時代の女性の雅さを現代風に表現しているものと
言われています。
) 「春秋冬物語」と「春秋東山記」の作品:
a) 「春秋冬物語」福井県立美術館(1980年) 三個組(高103cm、他)
垂直(又は横倒し)に立てられた黒い四角い箱(陶板)の上部(又は側面)に、多様な枯葉
(陶土)を大量に重ねて貼り付けた作品です。黄葉した葉や虫食いの葉、ちじれた葉などが
一見無造作に貼り付けられいます。朽葉は寒風に耐える現在の作者の証(あかしを、
表現していると思われます。生存の根拠や生存理由を問うている様な作品です。
b) 「春秋東山記」(1979年)三個組
高さと横幅の異なる黒い各々の箱の上に、鳥類の卵の殻を思わせる白い球体が一個づつ
載っている作品です。球体には大きな穴が開き、雛が誕生した後の様子が伺えます。
その穴の周囲には枯葉が数枚貼りついています。
生の発端と終焉を表しているていると見る人もいます。
) 「唐織物・月輪」と「記憶の領域」の作品:
「唐織物・月輪」(高 12 X 横 44cm)京都市美術館(1982年)
「記憶の領域」(高 40 X 横40cm、他)(1982年)二個組
これらの作品は、長い旅路の果てにある老境の女性が、過去の輝かしい思い出での糸で、丁寧に
織り上げた袋物を表現している様に見えます。前者は丸みを帯びた無地の半円球が連続して
連なり、袋の口が不規則に開けられています。後者は、やや大きめの水玉文様地で口が閉じられた
袋を表現しています。
) 「遊月琴(ゆうげつきん)」と「西海のもくず」の作品:平家物語より題材を取った作品です。
a) 「遊月琴」(高 10 X 横 50cm)(1982年):
青い椀琴や折れ曲がった横笛の上に、平氏の家紋である蝶が無数に群がっている作品です。
青い蝶や黒い蝶、金色の蝶も混じっています。
(野菜のピーマンが1個置かれているのは何の意味があるのでしょうか?)
同じ題名の他の作品もありますが、こちらは陶板の上に乗っている作品です。
b) 「西海のもくず」(高 50 X 横5 3 X 奥行 20cm)(1983年):
この作品は、一時は絢爛たる文化を築いた平家が、壇ノ浦で海の藻屑(もくず)と散った
鎮魂かかも知れません。貴公子が身に纏った、豪華な衣装で表現されています。
袖と思われる二個の四角い作品は、内側が真っ赤で、表側には多くの丸い文様が銀色に
輝いています。一個は縦に他の1個は寝かされいます。
) 「京紙」(高 20 X 横 32 X 奥行 32cm)(1984年)
従来の情念や思索から切り離された様な穏やかな作品です。
重ねられた紙束の上の一枚と、離れた所に置かれた一枚の薄紙で表現されています。
布目(蚊帳目)の付いた陶板がやや反り返り、白化粧を施し、対角線上に波打つ金彩や
細い引っかき傷が描かれています。
坪井明日香氏の作品は、女性ならではの表現がなされた物が多いです。
次回(三島喜美代)に続きます。
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