鼎子堂(Teishi-Do)

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美青年のいる文学史④~天上の二人『春の雪』

2012-05-17 22:51:39 | Weblog
曇りがち。


文学と映像の中の美青年ということで、何度か、駄文を書いてみたのですが、どうも、上手くかけず仕舞いで、そのまま4回目に突入です。
第一回目の『春の雪(三島由紀夫・著)』で、70年代あたりの日本文学史上、一番の美青年ということで、取り上げてみました。
主人公『松枝清顕』は、たぶん、今でも、日本文学史上一番の美青年というその座を明け渡すことが、難しいと思えるほどです。

終戦(太平洋戦争)後、日本では、『貴族』という種族が滅亡したことになっております。
それは、文学史上にも反映されていて、『斜陽(太宰治・著)』の中でも、本物の貴族の『おかあさま』の死によって、壊滅したことになっているようです。

その絶滅した本物の貴族の系譜は、『春の雪』の主人公・松枝清顕の恋人である『綾倉聡子』に、見出すことができます。
同じ貴族(華族)でも、松枝清顕と綾倉聡子では、貴族の格が違うのです。
(この華族制度については、明治維新後、もともとの宮廷につかえる貴族と、成り上がりで、明治政府から爵位を買った市民などがいる訳で、爵位については、いろいろあるようです)

つまり、松枝清顕ひとりでは、支えきれない美の頂点を、綾倉聡子というパートナーが、あればこそ、美しく花ひらいているのだと言えるのかもしません。

旧い習慣の『御立待ち』。
水鏡に月を映して、子供の将来を占う・・・。
月は、水鏡の中で、陰りをおびます。
松枝清顕には、不吉な影がつきまといます。

随所にこういう伏線が張られており、主人公は、きっと・・・絶対、幸福には、なれないんだろうなぁ・・・と思い込ませるあたり・・・そして、それが、儚い美しさに繋がっていく。

そして、もうひとつ、この物語を、美しく彩っている綾倉聡子ですが・・・。
とにかく、謎めいた女性(←この場合、『にょしょう』と読んでいただけると幸いです)で、この物語の最終巻である『天人五衰』でも、謎の言葉を残して、ケムに巻き、その美を永遠の『物語』そのものにしてしまうのです。
(周囲を騒がす、大本であるにも関わらず)いつの間にか、実害?の及ばない第三者になってしまうあたり・・・やはり、謎の女性です。
そして、純粋な貴族の系譜である『綾倉聡子』は、出家するだけで、世俗の煩わしい出来事から
いとも簡単に乖離できてしまうのです。

清顕は、死に、聡子は、奈良のお寺の門跡に就任し・・・。

日本文学史上、まさに、天上の美しさ(地上の汚辱は、一切無効になる世界)で、君臨するのが、松枝清顕と綾倉聡子なのです。