月に一度、集金に来る女性が私の顔を見るなり、「や‥」と言いかけて黙ってしまった。それが気になっていたのに、お金のやり取りをしているうちに忘れてしまった。彼女もまた、おつりに間違いが無いかと気にしていて、何を言おうとしたのか忘れていた。
何が言いたかったのだろう。「痩せたんじゃーない?」なのか、「やつれてるわね!」だったのかと気になって、洗面所の鏡に映る自分の顔にビックリした。朝からカミさんの手伝いをしていて、顔を洗うのを忘れていた。痩せているというより、髭が伸びてやつれた情けない顔をしている。
歳を取って、顔を洗うことも忘れていたのか。だらしなくなってしまったことが無性に情けなかった。私は几帳面な性格で、キチンとしなければ気になって仕方がない方だった。高校生の時は、学生服の袖から白いワイシャツが1センチほど出ているようにしていた。それが予科練の学生のようで、格好いいと思っていた。
高校の教師の時は、長髪にして生徒と同じ作業着を着ていることが多かった。教師の時は背広を着る習慣が無かったのに、自分で地域新聞を始めた時は、夏でも冬でも紺色の背広を着て取材に出かけていた。「銀行の人かと思った」と取材先で言われて、背広姿の信用度の高さを知った。
見かけなんかどうでもいいはずだが、他人は様相で判断する。信用してもらえるまでは、このスタイルを貫こう。長髪だったのでパーマをかけ、短くしてもらった。真面目なサラリーマン姿で押し通した。ここにしか自分の生きる場所は無いと思っていた。
それが普通のサラリーマンに戻ると、いろんなことに目が向いた。女性への関心は遮断していたのに、誘われれば付き合ったし、自分から誘うことも出来るようになった。置かれた立場で、人は変わることが出来る。でもそれは、ひょっとすると私だけのことなのかも知れない。
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