愛知県美術館で開催されている『今日の書展』を観てきた。書の伝統に根差しながら自由な表現が、観る人を楽しませてくれる。白い紙に黒い墨で表現する「書」は、一発勝負の緊張感が漂う。玄玄書作院の知り合い、矢野きよ実さんの「つながる」、久保田関山さんの「邪正一如」が目を引いた。
「人間には天使と獣がいる」と誰かが言っていたけど、人間がこの世に誕生した時からの「悩み」なのだろう。キリスト教では神を信じ、正しい道を歩くようにという。けれど、仏教では全てを受け入れ、悩み続けなさいと諭す。「邪正一如」は仏教の言葉で、邪も正もひとつの心から出てくるから、本来は同一なものという意味だ。
私は「邪正一如 」を眺めていて、先ごろ聴いた市川由紀乃さんが歌う『秘桜』が蘇ってきた。秘桜がどういう桜か分からないが、坂本冬美さんの『夜桜お七』を意識しているような、叶わぬ恋を歌っている。その歌詞は「まさか 本気じゃーないですね 弱音まじりの 別れ文 生きていけない ひとりでは」で始まるが、その次が凄い。
「逢いたいよ 逢いたいよ 千里駆けても抱きに来て おんな心の中空に 乱れ舞い散る 秘桜の色は煩悩 ああ百八色」。恋する気持ちは「邪」であるようだが、気持ちは純真な「正」である。人を恋するとは、煩悩そのものだろうが、心の中だけに留めて置けるものではない。「邪正一如」、誠によい文字を見つけてきたものだ。
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