カミさんが友だちの車で出かけたので、私は我が家の車で一宮市博物館で行われている『筧忠治展』に行って来た。博物館は妙興寺境内の深い森の中にある。一宮市出身の画家、筧忠治さんを知ったのは2009年に三岸節子記念美術館で開催された展覧会だったように思う。
筧さんは1968年、60歳で定年退職するまでは名古屋気象台に勤務する公務員である。高等小学校を14歳で卒業し、気象台勤務になると、日曜日の度に鶴舞公園や覚王山辺りへ出かけて行って絵を描いていた。その時に出会った人に勧められて画塾へ通うようになった。
おそらく公務員だったから、絵描きになる道には進まなかったのだろう。今回の展覧会で中心に置かれている油彩の『虫眼鏡を持てる老婆』は、41歳の時(1949年)に中部日本美術展に出品され話題になったが、翌年、光風会展に出品したペン画の『自画像』は落選だった。
定年退職後に個展も開いているが、画家としては注目されることは無かった。朝日カルチャーセンターでエッチングを学び、プレス機を購入して自宅で版画制作も始めたのは72歳からだ。90歳の時、どういう縁か分からないが刈谷市美術館で回顧展が開催され、続いて92歳の時、故郷の一宮市博物館で『特別展 筧忠治』が開催され、話題を呼んだ。
筧さんは96歳で亡くなったから長寿の人だ。私は筧さんの自画像が好きだ。目を見開いて怒っているように見える自画像は怖い男に見えるが、写真で見る筧忠治さんはとても優しい。自分をどのように描きたかったのか、きっと強くたくましい男になりたかったに違いない。
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