「夢ばかり追って。そんなのは理想論だ」とよく言われる。この街に文化会館ができた時、首長が「何か目玉になるものがあるといいのだが」と言うので、「住民よるオーケストラを作りましょう」と提案すると、「それはいい」と承諾してくれた。この街には音楽学部のある芸術大学がある。芸術の溢れる街にする。それが私の夢で、オーケストラはその第1歩である。
学長に相談するとよい指導者を紹介してくれた。「音楽が好きだけれど、楽器の演奏は初めてという人も楽団に入れて欲しいのですが」とその先生に言うと、あっさり「いいですよ」と答えてもらった。それからオーケストラの楽団員集めに奔走する。「素人レベルだが」と言う人から、「これから習うので、ぜひ参加させて」と言う人まで様々だった。
その市民オーケストラも結成してもう24年になる。楽団員同士の結婚もあり、よい指導者に恵まれ順調に育った。そして、少年少女合唱団、吹奏楽団、男女混声合唱団、オヤジバンドなどいくつもの音楽グループが誕生し、いよいよ音楽の街へと成長してきた。今日は、在住のプロの音楽家たちが結成した「音楽芸術協会」の第1回定期演奏会が開かれた。
会場の大ホールをほぼ満席にするくらいだったから、第1回としては大成功だろう。プログラムの作り方が巧みで、個性的な演奏家たちの長所を生かし、バラエティに富みながらバランス良くできていた。プロ意識がぶつかり合って、分裂などにならぬように末永く運営していって欲しいと思う。市民によい音楽を提供することだけに専念してもらいたい。
音楽家たちが自分たちの技量を惜しむことなく子どもたちに伝えたり、病院や介護施設にいる人たちにも聴かせてあげて欲しい。もちろん、こうした定期演奏会はきちんと入場料を取り、活動の一部に役立てて欲しいと思う。音楽にはなぜか癒しの要素がある。人類が音を、言葉よりも先に受け入れていたのではないかと私は思っている。