前福井県議会議員 さとう正雄 福井県政に喝!

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最近の福井県の原発をめぐるたたかい   ―――  住民運動・裁判・県議会論戦

2015年08月20日 | 福井県政
  神戸市で発行されている 季刊「人権問題」夏号に掲載された私の小文を紹介します。6月に書いたものです。



最近の福井県の原発をめぐるたたかい
  ―――  住民運動・裁判・県議会論戦

            日本共産党福井県議会議員  佐藤正雄


 はじめに

 福井の原発裁判について書いてほしい、と依頼をうけて引き受けたもの、大飯原発、高浜原発の裁判の動向については各新聞などでも詳細に報道されていますので、解説を書くだけではなく、わたしなりに、住民運動、裁判、県議会論戦などを組み合わせて状況をお知らせしたいと思います。

 4年3か月前の東日本大震災と福島原発事故はとりわけ原発立地県住民には大きな衝撃をあたえました。当時、私は県議落選中で議会復帰をめざす準備活動の真っ最中でした。ただちに県庁にも申し入れをおこない、福井県の原発推進政策の見直しや福島支援などを要請しました。ちょうど申し入れのために福井県原子力安全対策課をたずねたその瞬間に、テレビから原発爆発の映像が流れ、県職員の「あ~」という悲鳴が起こったのは生々しい記憶です。

 2011年4月の県議選で県議会に復帰した私は、全国各地、とりわけ京都や大阪をはじめとする関西地域の民主団体、共産党議員団などのみなさんからの視察要請に忙殺されることとなりました。
 関西地域のみなさんも、「自分の隣にある原発の危険」についてあらためて驚愕されたのです。「福井県の原発の電気で生活しているとは知らなかった」という方もおられました。
 わたしは、つぎつぎと福井県をおとずれる関西地域のみなさんに、「原発立地の福井県と消費地のみなさん方が連帯して原発ゼロを実現していきましょう」と訴えました。
 40数年にわたって原発と「共生」してきた福井県では、立地の敦賀市、美浜町、おおい町、高浜町の各議会で原発推進政策に反対する議員は日本共産党議員ぐらいしかいなかったのです。いまもそういう状況はあまり大きな変化はありません。
 福島原発事故後、民主党の野田政権の時に大飯原発3,4号機が再稼働されましたが、県議会で明確に反対したのは私と無所属議員の2人だけでした。当時のおおい町議会で反対したのも共産党の猿橋巧議員一人だけでした。
 これが福井県のひとつの現実です。ですから、「原発消費地」である関西地域のみなさんが、「原発の電気はいらない」との声をあげていただき、安倍政権、それぞれの県政、関西電力を包囲していただくことが関西電力をはじめ福井の原発を再稼働させないためにはきわめて重要です。

 原発事故後、福井県民の住民運動では、毎週金曜日の福井県庁・関電前アクション、毎月11日のメモリアル再稼働反対市民行進、また平日昼休みのランチタイムアピールなどがつづいています。3月11日前後には大規模な再稼働反対集会も開催されています。
 裁判によって再稼働を止めよう、という運動も弁護士を中心によびかけられ、福井県民や県外の方も原告や支援する会に参加して取り組まれています。これまでに大飯3,4号機の運転差し止め判決、高浜3,4号機の運転差し止め仮処分決定がだされました。
関西電力が控訴、異議申し立てなどをおこない係争中です。
 福井県知事あての再稼働反対署名運動も取り組まれ、県外から寄せられた分もふくめ、第一次分として20万余名分が福井県に提出されました。



一、 あらためて、11年前に10名が死傷した関西電力美浜3号機事故について
      私の提案で関電の原発すべてを停止し点検を実現

 本題にはいる前に紹介しておきたい事故があります。
昨年8月9日は、11名が死傷した関西電力美浜3号機事故からちょうど10年でした。もうひとつの8月9日、と私は言っています。
福島事故とは比較にもならないかもしれませんが、原発事故としてはそれまでで最大でした。放射能をふくむ1次系、ではなく2次系での事故だったために、放射性物質の放出、ということにはなりませんでした。当時、近くの海水浴場、関西のみなさんにも人気の水晶浜でもたくさんの海水浴客がいましたが、なんら原発事故の情報は提供されませんでした。もし、1次系の事故で放射性物質が原発敷地外に放出された事故だったら、と考えるとぞっとします。
この事故は運転開始以来、一度も点検されていなかった巨大な配管が破裂し、180度の高温蒸気が噴出。定期検査の準備作業をしていた下請け会社社員が犠牲となりました。関電社員の被害者はいませんでした。
 利潤確保のために、定期検査期間の短縮をねらった関西電力が運転中の原発での作業を下請けにおこなわせていたことが犠牲者をだす結果になりました。

私は2014年6月県議会でつぎのように質問しました。
・・・「関西電力美浜発電所で運転開始以来一度も点検されてこなかった巨大配管が破裂し、11名が死傷したのは、10年前の8月9日でした。長崎原爆の日でもあり、強烈な記憶であります。私ども県議会も生々しい事故現場を調査しましたが、5名の方を即死させた180度の高温の蒸気は、水となって現場をびしょびしょにぬらしておりました。私もお悔やみに参列しましたけれども、同僚の男たちの号泣は今でも耳から離れません。あのとき、福井県の原子力行政の中で死者を出してしまったと、県議会としてのチェックはどうだったのかと、私自身も自責の念にかられたわけです。
そこで当時、関西電力の全ての原発を停止して総点検することを県議会全員協議会の場でも強く求め、西川知事は渋る関電を抑えて、そのことを実現されたと記憶しております。
 (中略)
しかし、国や電力事業者は、関西電力美浜事故やその後の悲惨な福島原発事故の教訓を本当に酌み尽くしているでしょうか。・・・・・

 いまでも美浜原発のPR館には美浜事故の展示がされています。毎年、事故を忘れない「式典」も関電社長が参加して開催されています。
しかし、福島事故をうけてなお、しゃにむに原発再稼働へすすむ関西電力。「関電の原発では苛酷事故は起こらない」と「豪語」していますが、その背景には利潤優先があり、あらたな儲け本位の安全神話の復活を感じるのです。



二、 大飯原発運転差し止め判決の衝撃

 福井県での裁判闘争については、2012年春に本格的な準備が県民や弁護士によってはじまり、2012年11月30日に154名の原告で提訴がおこなわれました。2013年3月11日に2次提訴がおこなわれ189名の原告団となりました。
2014年5月21日、福井地裁で大飯原発3,4号機運転差し止め訴訟の判決、樋口英明裁判長は冒頭の主文読み上げで「運転してはならない」と述べました。
200名を超える傍聴希望者があふれるなか、38名の枠をコンピュータで抽選。残念ながら私ははずれ。残念・・・と出ようとした時に、マスコミの方から「当たり券要りませんか」と声をかけられました。
満員の傍聴席に座り、その時を待ちました。前をみると原告の代理人はたくさん座っていますが、被告・関電側の席は空席です。
樋口裁判長の主文につづく、判決要旨の朗読を聴きながら、あらゆる点にわたって諄々と原発運転再開を退ける内容に、「これは画期的な判決だ」と体が震える感動でした。
このような歴史的な判決文を直接法廷で聞くことができた幸運にも感謝しました。
傍聴できなかった支援者は裁判所の外で報告を待ち、主文のあと、「差し止め認める」「司法は生きていた」の2つの垂れ幕が出されると喜びが爆発しました。この光景は多くのテレビ、新聞でも報道されました。
翌日の赤旗には、日本共産党の笠井衆議院議員の談話が発表されました。
「国民の生存権を基礎とする人格権の立場から原発の本質的な危険性を指摘し、関西電力の主張を論破して、大飯原発の運転差し止めを求めています。これは福島事故と3年後の深刻な現実を踏まえ、地元・福井県をはじめ全国各地での粘り強い世論と運動の広がりを反映したものにほかなりません。安倍政権は、今回の判決を真摯かつ重く受け止め、大飯原発はもとより、全国の原発の再稼動を即刻断念すべき」と。
 この判決からして、大飯、高浜原発の再稼動は当然許されないのです。


 私は直後の6月県議会で質問にたちました。自民党、民主党の代表質問でも判決についての知事の見解が問われましたが、知事は「第一審であり、控訴審がある」などとしか答弁しませんでした。
 そこでわたしは、裁判とはふれずに、判決内容そのものを引用して知事の見解を問う手法で質問し、知事の答弁を引き出しました。

  「事故後3年数カ月が経過しても、13万もの人々が避難生活を余儀なくされ、先の見えない生活と命と健康が脅かされています。原発災害関連死者の増大を見ても、憲法上の権利である生存を基礎とする人格権が極めて広範に奪われる可能性は、原発事故のほかは考えにくいのが現実です。このような生存権、人格権を奪う危険が内在している原発について、知事の認識をお尋ねいたします。
    (中略)
 民主党の野田政権のときに、大飯3・4号機が再稼働されました。それに前後して、福井県庁前にも多くの県民、老若男女が集まり、抗議の声を上げました。そのときに、青年の皆さんが繰り返し唱和したのが、「ふるさと」という歌でした。私は、なるほどいろんな技術論もあるけれども、最後は安寧な一人一人の暮らしを守ることが大事だし、福島原発事故は、それを奪うものは原発だということをわかりやすくアピールしたのが、唱歌「ふるさと」の歌声だと感じました。
 知事にも生まれ故郷があり多くの思い出がおありでしょう。今も多忙の合間に畑仕事に精を出されているとお聞きします。それはすばらしいことだと思います。そういう人間性であれば、田畑を奪われ、農作物をつくることができなくなった福島県民のつらさもおわかりでしょう。私がお話をお聞きした、いわき市に避難されている楢葉町の女性は、私はふるさとの歌を歌えませんと涙しておられました。豊かな国土と、そこに国民が根をおろして生活していることが国富であり、これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失ではないでしょうか、知事の見解をお尋ねいたします。」

 西川知事の答弁は以下のとおりです。
「司法としての判断でありまして、民事訴訟の一審の判決でありまして、筋道としては、司法の場で今後、上級審の審議などを通し、さらに十分なこうした考え方の吟味がなされる性格のものであると考えております。いわゆるリスクのないものは世の中にはないわけでありますが、いかにこのリスクを最小限にするかという議論かと思います。
 次に、この問題に若干関連しますが、豊かな国土と安全・安心な生活が国の富、国富であり、これを取り戻すことができなくなることが国富喪失ではないかという御質問であります。
 何が国富であるかについては、必ずしも定まった考え方があるわけではなく、一概に言うことはできないと思います。年間3兆円、あるいはそれ以上かもしれませんが、海外に富が流出しているということは事実でございましょうから、これが年々累積するというのは、それだけを限って議論しても一つの議論のテーマであると、このように思います。
 国民が安定した生活を送るために、電気はひとときも欠かすことのできない基盤でありまして、資源の乏しい我が国にとって、エネルギーは国の安全保障に直接かかわる重要な事柄であり、地球温暖化の問題は、最近の厳しい気象条件を考えますと、我が日本のみならず、世界レベルの重要課題となっております。その意味で、我々これまでもそうでございましたが、原子力安全をいかに確保し、県民の安全をしっかり守りながら、この問題に自治体として責任を持って対応しているというのが我々の自負するところであります。
 原子力の問題については、こうしたさまざまな観点から日本の置かれた状況を冷静に見詰め、対処していく必要があると考えます。」

 福井県知事がいう、「リスクの最小化」「原子力安全を確保し対応していく」は福井地裁判決を排し、原発にしがみつく姿勢をしめしたものです。
ほかの「事故」と比較にならない「リスク」が原発にはあることをわたしたちは福島事故でもまざまざと体験したのです。
 安倍政権、西川県政、原発にしがみつく政治を転換する世論と運動が求められています。

 ところで、住民運動は判決に影響を与えたのでしょうか。本当のところはわかりません。
しかし、福井地裁前の交差点は、毎週、毎月、再稼働反対の市民行進が通ります。福井県民がねばりづよく上げ続けている「再稼働反対」の叫びが、3人の裁判官の耳や胸にも届いたのではないか、と思います。
 なお、この裁判は、関西電力が控訴し、名古屋高裁金沢支部で控訴審がおこなわれています。



三、 再稼働策動の強まりのなか、仮処分申し立て
   「高浜3,4号機は運転してはならない」の決定

安倍政権や関電による原発再稼働策動が強まるなか、2014年12月5日に福井地裁に、大飯原発3.4号機、高浜原発3.4号機の運転差し止め仮処分の申し立てが、大飯原発差し止め訴訟の原告4名を含む9名でおこなわれました。
そして今年、4月15日に、福井地裁は仮処分を決定しました。
「決定
    1  高浜発電所3号機及び4号機の原子炉を運転してはならない。
    2  申し立て費用は債務者の負担とする」

 弁護団はつぎの声明をだしました。
「関西電力に対し、高浜原発3・4号機の運転差止めを命じる仮処分命令を発令しました。
高浜原発3・4号機については、規制委員会が設置変更許可を出しましたが、本命令によって再稼働することはできなくなりました。
司法が現実に原発の再稼働を止めた今日という日は、日本の脱原発を前進させる歴史的な一歩であると共に、司法の歴史においても住民の人格権ひいては子どもの未来を守るという司法の本懐を果たした輝かしい日であると思います。
もっとも、原発が人格権という最も重要な権利を侵害するものであることは,既に昨年5月21日の福井地裁判決が明らかにしていたところであり、この判決を無視して国と電力会社が原発の再稼働を進めようとしたことは、露骨な司法軽視であり、三権分立という日本の統治制度の根幹を揺るがしかねない重大な問題であると考えます。
本命令は、このような国と電力会社による暴挙を正したものといえますが、国と電力会社は、今度こそ司法の判断を厳粛に受け止めるべきです。
国と電力会社に対し、本命令を機に、福島原発事故という現実を直視し、高浜原発3・4号機のみならず、すべての原発の再稼働を断念し、脱原発に舵を切ることを強く求めます。」


 「仮処分決定」は、「新規制基準は、合理性がなく無効」であるとし、「原子炉を運転してはならない」という決定をだしました。仮処分で原発が運転できなくなるのははじめてのことです。
 各紙でもその内容については詳細が報道されていますので、簡略にしますが、①大地震が起こった時の対策が新規制基準では不十分であり、地震の予知そのものが不可能であること、②すべての原発の使用済み核燃料の保管が極めてずさんで危険なこと、③唯一の避難道である県道149号線が原発のそばを通っているなど避難すらできない、④新規制基準は緩やかすぎて、これに適合しても原発の安全性は確保されない、などです。

 現在、福井地裁では高浜原発3,4号機運転差し止め処分に関西電力が異議をとなえている「異議審」と、大飯3,4号機運転差し止め処分を求める「審尋」が並行しておこなわれています。
 5月20日には福井地裁での大飯原発の審尋、高浜原発の異議審がおこなわれ、その後、福井弁護士会で弁護団から報告がおこなわれました。
河合弁護団代表は、「まず, 裁判長は 審理の方針から述べて ①双方の主張を正確に理解したい  ②争点を正確に把握したい  ③争点についての認識を深めたいと述べた。 また口頭でわかりやすい説明をするように求められた。」「裁判は2つあるが同時進行で進めたい。裁判官が4名並ぶ(予定)。拙速ではない審議をする」との解説がおこなわれました。
井戸弁護士は「裁判長は社会的な影響が大きい裁判である。批判に耐えうる決定をしたいと言った」と述べました。
林潤裁判長は審議の方針は、大飯と高浜原発のそれぞれの審尋と異議審をまったく別々ではなく、共通の場でやろう、という異例の提案です。
高浜原発裁判も大飯原発裁判もひろい意味では関連している、という判断だ、ということで、原告側も関電側も了解した、と報告されました。

 関西電力や安倍政権がいくら高浜原発再稼働を熱望しても、仮処分が取り消されない限り、法的に再稼働はできません。
福井地裁での審尋・異議審の日程は11月まで予定されており、年内の再稼働はありえないでしょう。関電は11月の再稼働をめざしていますが許されません。
ひきつづき、裁判の場での仮処分決定維持のたたかいを支えていくためのご支援をお願いいたします。




 おわりに

 今年3月24日。20万5000人の再稼働反対署名の福井県への提出行動がおこなわれました。代表の山本富士夫・福井大学名誉教授、中嶌哲演・明通寺住職らを先頭に福井県庁に署名用紙を運び込みました。
 しかし、西川知事はあらわれず、野路原子力安全対策課長らが応対しました。関西電力の社長らとの面会は繰り返すが、県民の声に耳を貸さない知事の態度には批判が集中しました。


 これに先立つ、福井県議会で私は西川知事に、県民への説明会の開催と、再稼働反対署名を知事自らが受け取ることを求めました。かつて、栗田元知事は、繰り返しきちんと知事みずから原発増設反対などの署名を受け取り、県民との意見交換に応じられました。

 西川知事の答弁です。
「原子力発電所の安全性等に係る住民説明会の開催及びその方法については、市町がそれぞれの地域の実情に応じて判断すべきものであります。こういうことでありますので、規制委員会等、地元からの要望があれば、みずからの責任において規制委員会が説明会を開き、住民に対する説明責任を果たす必要があると、このように考えております。
 それから、知事みずからが再稼働反対の署名活動について、受け取って県民との意見交換に応じるべきではないかとの御質問であります。
 今回の市民団体といいますか、団体からの署名につきましては、指定した日時と場所と対応者などについて具体的な内容をお伝えし、最も詳しい責任者がそれについてお答えするということであります。」

 西川知事の答弁は、住民への説明は市町の判断で、署名の受け取りは問題に詳しい部下が・・・ということで、本当に県民に無責任な態度です。
 わたしたちは、立地自治体ならではの様々な困難がありますが、なんとしてもそれを乗り越えて、原発事故を福井では起こしてはならない、そのためには原発ゼロを、とこれまでもそうであったように、これからも頑張り続けます。連帯してがんばりましょう。


        (6月末脱稿。一部修正加筆しました)