読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

安楽死を容認するか否か

2011年03月28日 | 読書

◇ 「神の手(上/下)」 久坂部 羊 2010.5 NHK出版
  作者は大阪大学医学部卒 外科・麻酔科で研修、病院勤務医・在外公館医官の経験を持つ。
 作家デビューは2003年の「廃用身」。現行の医療制度等既成の枠組みに対する批判精神旺盛
 とみる。
 テーマは安楽死は是か非か。

  最善の医療で手を尽くしながら、これ以上命を長らえさせても患者に無用の苦しみを強いるだけ。
 むしろ本人や家族から「楽にして(させてやって)欲しい」という切ない求めに応じることもやむを得
 ない。と考える医師もいる。一方、医師という「ヒポクラテスの誓い」を厳密に守り(「ヒポクラテスの
 誓い」の1項には「依頼されても人を殺す薬は与えない」がある。)、患者に利すると思う治療法を
 選択し、その命を永らえさせることこそ医師の務めと考える人もいる。安楽死を安易に認めると、
 経済的に患者の死を望む家族に加担することもありうる。正常な判断能力がある状態での本人の
 了解、治る見込みが全くないことなど厳格な条件の下でのみ認められるとする見解もある。

<参考>
 日本では安楽死は法的に認められていない。刑法上は殺人罪の対象になる。
 判例上(昭和37年名古屋高裁)違法性阻却要件として以下の6点が挙げられている。
  1.末期である。(死が切迫している。)
  2.耐えがたい苦痛を伴う疾患である。
  3.苦痛の除去・緩和が目的である。
  4.患者が意思表示していること。
  5.医師が行うこと。
  6.倫理的妥当な方法で行われること。

  本書は単に安楽死は是か非かを問うだけではない。崩壊しつつある医療制度の実態と問題点を
 指摘し、これを改善するためには行政機構も含め現行の医療システムを構築し直し、真に患者の
 ためになる制度を作ろうとする集団が主役である。一種のエリート意識過剰集団であるが、患者
 の死の苦しみを見かねて、安楽死を選択した愚直な医師がこれに翻弄されながら最後は・・・・。
  このエリート集団は、無能で効率の悪い医師を排除し、有能で効率の良い医師で医療行為を進
 めることによりもろもろの問題点を解消できるとする。医療費のかかる患者にはいたずらに延命を
 求めず、安らかに幸福感の中で死を迎えられるように、「安楽死用新薬」を開発する。

  作者は医師であることから、現行の医療制度の矛盾や問題点に関して詳しく、医療・医薬業界
 事情にも明るい。医師と看護師、薬剤業界、医師会内の争いなどをない混ぜながらのストーリー
 展開は、幾分不自然な部分はあるものの、結構面白い。

 ところで、あなたは安楽死容認派?否定派?

   
 


    (以上この項終わり)


  

コメント
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