リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

日本語の音楽用語(5)

2020年02月19日 14時01分10秒 | 音楽系
空虚五度という用語があります。三和音(長三和音、短三和音)の三度音がない「和音」(そもそもこういうのは和音とは言わないようですが)のことです。ドミソで言えば、ミがないドとソだけの「和音」です。

ブルゴーニュ楽派(15世紀中頃)の「ブルゴーニュのオクターブ跳躍」を伴ったカデンツは必ず空虚五度で曲が終わります。もう少しあとのリュート音楽やヴィウエラ音楽にも一杯出て来ますし、ずっとあとの時代なら、ベートーヴェンの交響曲第9番の冒頭、ブルックナーの交響曲第9番第1楽章は空虚五度で終わります。

空虚を辞書で調べてみますと、「何もないこと、心が無の状態にあること、物事に実質的な内容や価値のないさま」などとありますが、上に例としてあげた音楽はとても充実していて力強いです。

空虚五度は英語では、open fifth, empty fifth というそうですので、この空虚五度というのは訳語としては正しいと言えるでしょう。ドイツがではどういうのかな?ただロックの世界ではパワー・コードと言うらしく、こっちの方は音の実態に則しているかも知れません。空虚五度は決して「何もない」とか「empty」ではありません。