院長のへんちき論(豊橋の心療内科より)

毎日、話題が跳びます。テーマは哲学から女性アイドルまで拡散します。たまにはキツいことを言うかもしれません。

このたびの地震に寄せて(2)

2011-03-13 07:20:48 | Weblog
 これから復旧作業が本格化するだろう。その際、過去の経験が参考になる。

 阪神淡路大震災の時の資料が残っている。なかでも一級の資料は、当時、神戸大学精神科教授だった中井久夫氏が書いた『1995年1月・阪神淡路大震災』(みすず書房)である。

 彼は混乱の中、精神医療はこの緊急時にあたって何ができるかと問いつづけ、同教室で陣頭指揮をとった。

 すぐに、あらゆることを書きとめ、当時流布されたパンフレットまで集めて、後年のために書物に残した。本書は今は絶版となっているけれども、みすず書房はすぐに大増刷を始めるだろう。(そうすべきである。)

 本書には実践的な対応や、素直な感想が満載されている。以下のような現場での率直な感想は、今回、大いに参考になるだろう。

(曰く)震災当初、報道のヘリコプターの音がやかましく、救助の妨げになった。
(曰く)他県から駆けつける医師は、ときに横柄で「来てやっている」という感じで、自分では動かず、かえって邪魔になった。有名大学出身者にこの傾向が見られた。
(曰く)ボランティアが沢山来てくれた。何もできなくても彼らがいるという事実だけで、被災者には大きな支えと励みになった。
(曰く)研究者と称する人物が大勢乗りこんできて、アンケート調査などを始めたけれども、彼らは自分の手柄のことしか考えていないのか、被災地では迷惑だった。

 今後も「識者」による「解説」などが行われるだろう。そのような人々は、上記の4番目の人たちだから、被災者を研究材料としか考えていない。そのため、彼らの意見は本質的なところで外れているだろうと、私は思う。

 中井氏は震災の1年後に『昨日のごとく』(みすず書房)を著している。これも絶版なので再版してほしい。被災者のケアが長期にわたることが、これで分かる。今後の復興が大変なのである。