この馬券に神が舞い降りる

だから...
もうハズレ馬券は買わない。

1回中山6日目

2012-01-21 05:36:48 | 馬券
【佐々木竹見】
来週月曜日からの開催を控え、小向のあたりは慌ただしさを見せていた。
金曜日、夜が明ける前、霙(みぞれ)混じりの空模様を良太は睨んでいた。
平日の学校がある日は、一番に調教コースにでる。
これは他の関係者への配慮と、良太のことをあんじた調教師山本の判断である。
しかし今朝の天気を見た山本は、即座に良太の騎乗を禁止した。
川崎に来て初めての雨であり、万が一何かがあってからでは遅いのである。

調教には乗れなくても馬房の掃除や、厩舎周りの整理など雑用を終えて厩舎に戻ると、厩舎のストーブを囲んで、山本と客人が話をしていた。
「おお、天才ボーズ。おめの騎乗さ、楽しみにしてきたけ..」
東北なまりの痩せた老人は、良太の顔を見るなり話しかけてきた。
「佐々木先生だ、ご挨拶をしなさい」
「はい、柏木良太です、よろしくお願いします」
山本に「せんせい」と紹介されたことで、良太は佐々木を調教師と勘違いをした。
生涯成績7153勝、歴代通算成績日本第1位の佐々木竹見を良太は知らなかった。
「熱っちお茶、もう一つ..」
その身体からはアルコール臭さが漂っていた。聞けば、さきほどまで他厩舎の人間と呑んでいたそうで、齢70歳、ターフを離れても鉄人である。

24日(火)には今年で10回目の「佐々木竹見カップジョッキーズグランプリ」が開かれ、全国のトップジョッキがその腕を競う。

「おめも、見に来い」
佐々木に言われて、良太は困惑した。
「せんせい、それは無理だ。良太は学校だもの」
佐々木のなまりにつられて、山本までがなまり口調になり、それまで緊張していた良太はそのやり取りに思わず吹き出してしまった。

気がつけば、外は霙から雪に変わっていた。

<佐々木竹見氏は実在の人物ですが、この話は全くのフィクションです。>
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