この馬券に神が舞い降りる

だから...
もうハズレ馬券は買わない。

1回東京初日

2012-01-28 09:38:56 | 馬券
【杉村一樹】
金曜日のレース終了後、杉村一樹を囲んだささやかな集まり。
その輪の中に柏木修司はいて、杉村との少なからずの縁を感じていた。

中津競馬の廃止から10年、ふたたび経験した荒尾競馬の廃止。
しかし杉村には中津の時のような憤りはない。それほど荒尾競馬の最後は困窮したものだった。
レースに騎乗して、勝利しても、1万円にもみたない番組が続く。
賞金が安ければ、馬主は離れていく。
馬数が減れば、まともなレースが組めず、サークル状態はさらに悪くなる。
存続していくこと事態、誰をも幸せにしない競馬がそこにあった。

1月23日川崎競馬場、1レース。今年最初のレースに杉村は臨んだ。
彼の復帰第1戦を祝うかのように、騎乗するヴィーヴァローレンはフォンの後押しで1番人気となった。
ゲートが開き、「社台の勝負服」が川崎競馬場を駆ける。
直線は、川崎の主「今野忠成」と叩き合いとなったが、杉村が4馬身先着し、移籍初戦を勝利で飾った。

前半3勝したものの、今開催の勝利はそれだけに留まった。
「後半、勝てるレースを落としている方が悔しい。上はまだまだはるか遠くだから」
そう話す杉村の横顔を見ながら、修司は杉村の決心を感じ取っていた。
中津と荒尾の魂を背負って、杉村一樹が南関東のテッペンを目指して競馬場を駆け廻る。
みたび同じことが起こらないため、何をすべきか、この男が知っている。

誰ともなしに用意した、競馬新聞を手に、杉村が修司に話しかけていた。
「相馬眼の修さんの予想を教えてくださいよ」
周りのみんなも興味津々に杉村の話を聞いた。
「えっ、柏木さんってそんな人だったんですか」
修司は軽く手を振りながら、
「昔の話。ここに来てからは馬券の『ば』の字もやっていない」

地方競馬が無い日でも、修司のすべては自厩舎の馬に注がれる。
厩舎人としての修司の自戒だ。だから彼が馬券を買うことはないのだ。
「相馬眼の修」の予想は、馬をみて、初めて予想されるもので、他人の情報で成り立つものではない。
「そこをなんとか、杉村へのご祝儀だと思って」
しぶしぶ30秒ほど、競馬新聞に目を落とした修司は、すぐにサインペンでチェックをいれた。
③、④、⑥、⑦、⑧、⑫、⑮戻って⑭の8頭。
さらに④、⑦、⑫、⑮の馬番に○印を付ける。
「あとは明日、馬を見てくれ。ド素人じゃないんだから分かるだろう。俺は厩舎に戻って馬を見て帰るから」
帳場で店の主人と二言、三言交わした修司の姿は、夜の闇の中に消えて行った。

<杉村一樹騎手の川崎移籍初勝利を脚色していますが、この物語はフィクションです。実際の人物とは何の関係もありません。>
コメント
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