病室のベッドの上で修平は、竜太が持ってきたギターをつま弾いていた。
ラリー・カールトンの影響で買ったES-335。
二十数年間ほって置かれたギターなのに、弦には錆びひとつ無い。
父がギターの手入れをしていたのは、母から聞いた。
「修平が家を出てから、お父さん、最初は修平の部屋に入らなかったの」
「でもギターを理由に部屋に入ってはギターを弾いて、年に1度は弦を張り替えていたのよ」
「きっとそうして修平と、会話をしていたのかも知れないわ」
もともとはギターは父征成の趣味だった。
修平がギターに興味を抱いたことを喜んで、6歳の時に買ってくれたのがきっかけで、
高校の時にバイトをして手に入れたのが、このギブソンのES-335だった。
「具合はよさそうね」
病室に入ってきた小林香良が、声をかけた。
「自分でも本当に病気なのか、不思議な気分だよ」
「それは日本一の名医がついていますからね」
そうおどけた香良を修平は真剣な顔で見返した。
「その名医の人生を、僕はめちゃくちゃにした」
「もしも結婚のこといっているのならば、それはお門違いだわ」
香良は親同士が決めた、許嫁だった。
「修平さんのことを思って、結婚しなかったわけではないし、これは私が選択した道」
「それに私は自分の人生を、それほど悪いものだとは思っていない。幸せだと感じている」
「このギターはね、おやじが大事に保管しておいてくれたものなんだ。でも肝心の腕が錆びついてしまった」
病に伏してしまうと、何事マイナス方向でしか考えられなくなる。
そういう病人の心情を香良はわかりすぎる分かっていた。
「それほど私の人生に自責の念があるのならば、責任をとってもらいましょうか」
「しかし今の自分にはなにをすることもできない」
「病気が治ったら、あの子たちと同じに籍にいれてくれること」