Pの世界  沖縄・浜松・東京・バリ

もの書き、ガムランたたき、人形遣いPの日記

残したかった一枚の写真

2011年02月08日 | 那覇、沖縄
 12月末、大学の近くの那覇市役所の首里支所が道路拡張にともなって移転した。すでに支所は取り壊され空き地になっている。そのすぐそばに立つ「首里支所前」バス停。主人がいなくなり取り壊されて家の周りに取り残された塀にはめこまれたままになっている表札のようで、少し寂しい。バスに乗ってこのバス停の名前が聞こえるたびに、なぜだか胸が痛む。
 10年以上前、引っ越してきてまず手続きにいった場所がここだった。ある意味、事務的な手続きの出発点である。当時は、なんて古めかしい役所だろうと思ったものだ。すべてが「レトロ」で、昭和を感じさせた。そのうちにそんな光景が日常になり、愛着がわいた。あちこちが近代的な建築に変わり行く中、首里に取り残された薄汚れた役所。
 これは沖縄の首里で起きた一例にすぎないかもしれない。しかし全国どこだって、バス停の名称のあったはずの建物が消えたり、移転してしまい、しばらくの間、古い表札だけが残っていたという事例はあるはずだ。そのうち、このバス停の名前も変わるのだろう。変わったとき、人々の記憶からその存在が少しずつ忘れ去られていく。だから私は、このバス停を写真に記録しておきたかった。この写真を指差しながらいつかこういうときが来るんだ。
 「あそこにはね、昔、那覇市の首里支所があったんだよ。素敵な雰囲気の役所だったさ」と。