村上春樹小説と東京海上不払い。 fiction and non fiction

　(1)村上春樹さんの文芸春秋に掲載された小説「ドライブ・マイ・カー」（ビートルズ同名曲）での小説（fiction）でありながら地元実名が出ての町内の社会マナー（「たばこのポイ捨てがここ（現地名）ではみんなが普通にやっていることなのだろう」小説挿入文）にかかわることが「屈辱的」（報道）として地元から抗議を受けたことと、東京海上が自動車保険の一部（特約事項・見舞金支払いなど）の不払いが１０万件にも及んだことがあきらかになったことは、根は同じだ。

　①村上春樹さんの小説は日本人作家として海外での翻訳が各段に多く、広く愛読されてここ数年はノーベル文学賞の候補に毎回顔を出す国際的に文学評価の高い注目の作家だ。

　その村上春樹さんが小説（fiction）の中で、好きな北海道に親近感を持って書いた（本人コメント）ことが実名現地から抗議（地方議員）を受けたのは、その高名、抜群の注目度の高さ所以（ゆえん）だ。

　②小説には夢物語もあれば臨場感でグイグイ読者をそのまるでノンフィクションの世界のように引きづり込み、現実倒錯（とうさく）の世界観、読後感に浸す作法もある。
　しかし、建前は小説、フィクション（作り話）であり、作家の文学力、想像力、創造力の表現媒体であり、ノンフィクションではない大前提がある。

　③それこそ本の購読者層が情報化時代、情報ツールの多様性の中で減少しているとはいえ、出版本は見た目にはおびただしいほど継続されており、そのすべての中で「現実」と「小説」との整合性（小説の中で現実との整合性が必ずしも必要なのかの問題提起はあるが）を検証することなど不可能で、その多くは小説本として問題にもされないだろう。

　④一部、村上春樹さんのように国際的にも作家として高名で出版前から注目を集める有名作家の周知力、興味露出力の宿命である。
　まさに小説、フィクションの中で、現実との整合性が必ずしも必要なのかの問題とそれにとらわれては「小説」の自在性、発展性、想像性、創造性、夢をしばる逆効果性もある。

　⑤村上春樹さんはこの問題を受けてメディアを通して「僕の好きな北海道のそこに住んでおられる人々を不快にしたとしたら心苦しいことで、単行本にするときには別の名前に変えたい」（本人趣旨報道）とコメントした。

　(2)東京海上の１０万件不払い問題は、おびただしい特約事項の中のサービスレベルの向上が仇（あだ）になったものだ。
　スタート時は申請者（請求者）のみの特約がその後申請にかかわらずにすべての対象者に支払うサービスレベルへの強化であった。

　これには検討した社内でも「不公平は出る」（つまりすべてを網羅出来ない社内力）との認識があった（報道）ものを支払い体制を整備、完備せずに（あるいは出来ずに）サービス強化を先行して運用したことによる対象者（つまり未申請者）１０万件の不払いを招いたものだ。

　常々、保険契約の特約事項の分かりずらさは指摘されている。東京海上にしては不誠実であり企業努力の不足であり、多くの保険会社が抱える問題だが東京海上にして社会問題化したものだ。