正直言うと、私は天国も地獄も信じていない。
死んだ後のことなんて、心配も、期待もする必要はない。天国と地獄を必要としたのは、他ならぬ人間である。生きている人間にこそ必要なのが天国であり、地獄である。
現実問題、良いことをすれば死んだら天国、悪いことをして死ねば地獄。この教えは、おそろしく人の心を縛る。かくいう私だって悪ガキであった子供時分、如何に悪さをしようと、神様に謝罪すれば許されると思っていた。
悪いことは、悪い。そう自覚することは、社会で生きていく以上、非常に重要な認識だ。人は一人では生きられない。社会という集団のなかでこそ、生きていける弱い存在であり、集団化することで強い存在となれる。
だからこそ、人間の集まりであり、共同生活の母体である社会を、如何に円滑に維持するかが人々の共通概念として成立している。その社会を、一定の規則のもとに存在させるのが政府であり、その存在を機能させるのが官僚である。
表題の漫画の主人公・鬼灯(ほおづき)は、地獄の閻魔大王の首席補佐官の地位にある鬼である。鬼の中でも、特に際立って優秀な鬼であり、それゆえに冷徹でさえある。
私は全ての漫画に目を通している訳ではないが、刑事や警官を別にすれば、役人を主人公に据えた作品はそれほど多くない。ほとんどの場合、役人らしからぬ、人間味あふれる主人公を登場させる。
でも、多くの漫画では、役人は冷淡で、規則に縛られ、情味の通じない堅物として描かれることが多い。もちろん、そうでない作品もあるが、どうしても悪役もしくは、主人公の邪魔をする存在として描かれがちである。
それを逆手にとったかのような表題の作品は、実に楽しい、まさにアイディア勝ちである。また鬼たちを登場人物に据えているが故に、その絵柄もかなり特殊だと思う。このような漫画を生み出してしまう日本の漫画文化は実に奥深いと思う。
ま、堅苦しいことは抜きで、楽しんで読める作品なので、見かけたら是非手に取って欲しいと思います。